【訪問!ESD実践拠点(1)】釧路ユネスコ協会(釧路市)
皆さん、「ユネスコ」とはどのような組織か、ご存知ですか? ユネスコ(UNESCO)は「The United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization」の略称。第二次世界大戦をきっかけに1946年11月に誕生した国際連合の専門機関です。「広島・長崎に核兵器が使われた悲劇を想い起こし、科学が平和のために生かされなければならないことを決意し」、教育と文化、科学を扱う機関として設置されました。
設置の際に採択されたのが、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」という一文が有名なユネスコ憲章です。日本では翌年1947年、この憲章に応えて、世界に先駆けて民間団体「仙台ユネスコ協力会」が宮城県仙台市に設立されました。やがてユネスコ加盟運動は政府に広がり、日本は1951年に60番目の加盟国となりました。
※参考 公益社団法人日本ユネスコ協会連盟 http://www.unesco.or.jp/
同じころ、道内各地でもユネスコ運動が広がりました。まず1948年に「札幌ユネスコ協会」が、次いで1949年に「小樽ユネスコ協会」が発足。そして1950年に活動を開始したのが「釧路ユネスコ協会」です。2018年8月現在、全国では278のユネスコ協会が、道内では19の団体が活動しています。
今回は「釧路ユネスコ協会」に訪問し、神田 房行(かんだ・ふさゆき)会長(写真下段右)、戸田 芳美(とだ・よしみ)副会長(下段左)、戸松 栄(とまつ・さかえ)事務局長にお三方に、現在の取り組みについてお話をうかがいました。
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― 現在は、どのような事業を行っていますか。
釧路ユネスコ協会の事業は大きく三つあって、「ユネスコ子どもキャンプ」「絵で伝えよう『わたしのまちのたからもの』絵画展」「世界寺子屋運動<書き損じはがきあつめ>」です。この3つは全国でもおおむね共通しており、釧路でも実施して8年になります。
「子どもキャンプ」はネイパル厚岸(北海道立青少年体験活動支援施設)と連携して、夏休みに実施しています。以前の会長が建てた、電気も水道もない山小屋「ランプの家」で、その名のとおりランプを灯したり、自炊したり、英語の勉強をしたりという3日間です。好評で、毎年10人から20人くらいの小中学生が参加しています。
「わたしのまちのたからもの」は、地域の遺産に目を向けようというものです。展示数が増えるとその分、経費がかかりますが、今年度もすでにかなり力作が集まっており、寄附をどう募ろうかという嬉しい悩みがあります。「書き損じはがきあつめ」は、市民に対するユネスコ活動のPRも兼ねているものですね。そのほか、募金活動や平和活動への協力も行っています。
― 設立してから、これまでの活動は?
ユネスコ運動は平和教育が軸となっており、現在はESD(持続可能な開発のための教育)の推進を掲げています。釧路ユネスコ協会の初代会長は、当時、釧路公民館の館長でいらっしゃった丹葉 節郎(たんば・せつろう)さん。石川啄木やアイヌ文化に関する研究・貢献でも知られ、1977年(昭和52年)の口承叙事詩「ユーカラ」劇のパリ・ユネスコ本部での公演実現、懸賞制度の創設などにも取り組んだアイデアマンでした。
その後、一時、活動が休止したこともありますが、釧路市教育長であった山田 和弘(やまだ・かずひろ)さんが会長になり、「ユネスコスクール協力校」制度を創設、ESDに関する取り組みを本格化しました。当時、北海道教育大学釧路校で教鞭を取り、ESD推進センター長を務めていたのが、現会長(神田房行さん)です。
― ユネスコスクールとは、どのような仕組みですか。
ユネスコスクールはもともと、ユネスコ憲章に示された理念を学校現場で実践することを目的に生まれました。世界182か国で11,500 校以上が加盟して活動しています。文部科学省と日本ユネスコ国内委員会では、ユネスコスクールをESDの推進拠点と位置付けており、国内では世界の一割にあたる1,116校の幼稚園、小学校・中学校・高等学校及び教員養成系大学がネットワークに参加しています(2018年10月現在)。
ユネスコスクールに法的な拘束や義務はありません。年に一度、日本ユネスコ国内委員会に報告書の提出が求められるだけで、それ以外は自主的な取り組みを積極的に行うことが期待されます。とはいえ、いきなりパリ・ユネスコ本部に登録するのも敷居が高いと思われるので、釧路ユネスコ協会では2010年、先に述べた「ユネスコスクール協力校」を立ち上げました。
これは、北教大釧路校ESD推進センター・北海道教育庁釧路教育局・釧路管内町村教育委員会連絡協議会・釧路市教育委員会と釧路ユネスコ協会の五者が「ユネスコスクール協力校に関する連携・協力協定書」への調印により実現したものです。どの学校でも気軽に参加することができ、ユネスコ活動を連携協力しながら行うことができる、全国でも珍しい仕組みです。2011年には「釧路ユネスコスクール協力校円卓会議・意見交換会」も開催しています。
※参考 ユネスコスクール公式ウェブサイト http://www.unesco-school.mext.go.jp/
― 今後の取り組みは、どのようにお考えですか。
例えば、先にご紹介した「子どもキャンプ」はネイパル厚岸と連携・協働しており、また北海道教育大学釧路校の大学生がサポートに入ってくれています。ネイパル厚岸では、子どもの問題解決能力や活動へのモチベーションを高めることをねらいとして、子ども目線の取り組みを増やしているところです。釧路ユネスコ協会の「子どもキャンプ」はこうした流れに貢献できていると思います。「わたしのまちのたからもの」でも、地域の絵描きさんや釧路美術協会さんに子どもたちに指導してもらっており、特徴的だと思います。
釧路ユネスコ協会の会員の年齢層も高くなり、実働できる人が限られてきていますが、このように他の団体等と協働しながら、取り組みを続けて、子どもたちが「心の中の平和をとりで」を築くことができるよう、豊かな自然、命の尊さ、文化を学ぶ活動を行っていきたいと考えています。2020年の協会設立70周年事業を盛り上げていきたいと思います。
※参考 北海道立青少年体験活動支援施設 ネイパル厚岸 http://napal-akkesi-hokkaido.jp/
(2018年11月20日 聞き手:溝渕清彦)
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[アーカイブ]
訪問!ESD実践拠点
(1)釧路ユネスコ協会(釧路市)
(2)標津サーモン科学館(標津町)