環境学習施設等機能強化プロジェクト

【開催報告】環境学習施設の可能性を考える 「ウィズコロナに対応した環境学習施設での取り組み」(オンライン 12/17)

2020年12月17日に、環境学習施設の可能性を考える 連続勉強会の第7回として、「ウィズコロナに対応した環境学習施設での取り組み」を開催いたしましたので、報告します。

概要

[開催趣旨]

新型コロナウイルス感染症による影響を受けて、環境学習施設では従来の活動に制限がかかっています。各施設では、3密を避けたイベントの実施を行うなど、新しい生活様式に沿った様々な工夫が行われていますが、それぞれの対応や課題については、必ずしも十分には共有されていません。

今回の勉強会では、コロナ禍で行われたオンラインを活用したイベント開催や情報発信、リユース品を使用したステイホーム支援など、環境学習施設等で行われた事例をふまえて、今後の施設での取り組みに向けてディスカッションを行いました。

[開催日時] 2020年12月17日(木)13:30~16:00
[開催方法] オンライン(Web会議システム「Zoom」を使用)
[参加者] 環境学習施設のスタッフ、施設運営に関わりのある方 34名(関係者含む)

内容

【自粛期間の博物館の取組みとオンラインの評価の仕組みについて】
「これからのオンライン発信~自粛期間中の博物館の取り組みを通して~」 資料はこちら

■奥本 素子氏(北海道大学高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)准教授)

●自粛期間中の博物館のオンライン発信

博物館の、臨時休館時のオンライン発信について調査したところ(6月と11月に実施)、5割強がオンラインを実施し、動画配信は2割、SNSは4割が利用していた。発信率は、私立や大学より、公立の施設の方が高い。館種の比較では、SNSの利用は美術館や動水植が、動画の利用は理工系や動水植が積極的であった。

・オンライン活動をどう評価するのか

これまで会場で実施していた「サイエンスカフェ札幌」について、2017年度より調査を行なっていた。イベントの評価として、初参加は6割以上で、年代のバランスも良かった。文理割合では理系が6割。一般参加者は6割で、一般向けにアプローチができていた。2020年度にオンライン開催したところ、100~120名が視聴した。オンラインの参加傾向として、55歳以上が減り、関係者が増えた。満足度や難易度は内容によるものなので、あまりかわらない。アウトリーチ効果として、CoSTEPをはじめて知った人が4割、道外参加が5割以上と、これまでと違う客層となった。認知媒体では口コミとSNSの効果が高い。有料のオンライン広告は、学生や子どもとその親世代に多く配信され、高齢者にはあまり配信されない。ターゲットを絞って広告を出すのは良いが、これまでとりこぼしてきた層、広く一般的に伝えるのはオンライン広告では難しい。

夏場以降はオンライン疲れか、視聴者が減り60~80名となった。アンケートの集計率も低くなってきた。しっかり向き合うタイプのイベントの集客が減ってきた。音声のみでラジオ的に実施したら、「ながら見」で気軽に参加できるのか集客は良かった。今後が正念場。オンラインの展開方法の課題について考えていきたい。

【道内の環境学習施設等での独自の取り組みや課題について】

■三瀬 雅允 氏(札幌市環境プラザ/指定管理者 公財)さっぽろ青少年女性活動協会)

「札幌市環境プラザのコロナ禍における取り組みや課題について」資料はこちら

来館者が減少し、今年度の見学は5件だけ(昨年65件)。学童施設の見学が大きく減り、メインの体験型事業ができない状態。

・広報媒体として、facebookを使って、家でできるエコの取組みなどを配信したが、facebookはコミュニティ形成には有効だが、その先へは浸透しづらく新規への情報提供があまりできないことがわかった。SNSはその特性から年齢層やアクセス頻度にあわせて利用を考えたい。YouTubeのチャンネルを開設して、コンテンツとしての動画を作成し、会場で参加するのと同じ効果があるような配信ができないか考えている。

・オンライン事業では、遠距離の講師の話を聞けるのは良かったが、通信環境の不安定さがあった。会場とオンラインと同時開催は、感染対策が大変だった。夜に開催したセミナーでは、参加者は気楽に「ながら見」で参加できたようだ。

オンラインならではのメリットがある情報を提供したい。音や照明に適した場所づくりや、情報発信のプラットホームをどうするかが課題。

・コロナ禍では、展示物は、動画を使い、接触せず楽しめる工夫をしている。施設展示については、滞在時間が短くても、学ぶきっかけとして楽しんでもらう。事前事後のフォローが必要。

■リサイクルプラザ宮の沢/指定管理者 NPO法人環境り・ふれんず 東 飛郎 氏

「札幌市リサイクルプラザ ウィズコロナにおける施設の取り組み」資料はこちら

札幌市と協議して、感染対策を最優先に、できることを実施している。

・効果の比較(対昨年度)として、来館者数は5~9割減。食器貸出しはイベントがないので10割減となった。不用品の受け入れは増加、コロナで外出を控え家の整理をした結果か、持ち込みは増え、持ち帰りは減った。家具のリユースは自宅からアクセスできるため減少していない。ステイホームで、自宅で楽しめることが効果ありそうなので、本やおもちゃ、ゲーム、DVDなどを無料で提供している。

・コロナ禍の影響としては、札幌市リユースプラザと初めての連携事業で講師を派遣し、新しい関係性ができた。広報活動として、廃棄物学会のWeb展示に参加したり、関係連絡会のHPに情報を掲載してもらったり、ラジオ出演などの機会が増えた。

 来年は、プラスチック問題に関する映画会を開催予定。入場制限など対策して、会場とリモートどちらも開催できるように調整中。

・課題は、高齢で自粛中のボランティアに、どう今後事業に参画してもらうか。オンライン事業の導入について方法や内容、資金繰りと、今の事業とのバランスを考えている。

■北海道ESDセンター/EPO北海道 小路 楓

「新型コロナウイルス感染拡大に伴う地域 ESD 拠点への影響・対応に関するヒアリング調査報告」資料はこちら

地域ESD拠点は、学校、社会教育の現場のESDを支援・推進する組織で、道内19か所に登録されている。

・課題として、対応の情報源がなく行政のガイドラインにどこまで対応するか。モチベーションを保てない。特に学校は臨時休校後、総合学習や地域学習や課外活動が後回しになり、できることが減った。施設関係では、収益減、来館者の減少によりオンラインのイベントを企画するが料金を取りづらい。などがあげられた。

・コロナ対策のガイドラインについては、類似施設の対応を参考にした。展示はハンズオンでは行なわず、密にならないように屋外のプログラムを作った。日帰りイベントは需要があった。自然体験のイベントの利用者にはセルフガイディングの道具などを貸し出していきたい。

・調査の考察として、正しいリスクの認知と適切な対策に関する知見の集約と共有が必要。地域において本当に必要なこと、自然の価値、大事にすべきつながり等を見直す時間・機会となっている。関係行政機関のプラットフォーム機能の強化が必要。

【質疑応答】

Q.教材についてアウトリーチ的に使えるものをご存知ですか?

奥本)NHKオンデマンド教材がよくまとまっている。NHKのEテレのfor スクールは、教材、ワークシートなどダウンロードできる。教材のリサーチにもいいデータベース。
 https://www.nhk.or.jp/school/program/

Q.一人でも使用できる教材はありますか

奥本)トランクキット。最近は手軽で、それぞれの環境で学べる仕組みのものが開発されている。

Q.環境プラザでは、貸し出せるものがありますか

三瀬)自然体験で使用できる、双眼鏡などはあるが、活動がないので貸し出しもない。

Q.感染症対策について、来館者との距離感や温度感の工夫(野外での安心安全のために)

東)開催条件は1メートル以上、講師と参加者が離れていること。座学など一方向のものが多くなった。高齢者の講師が自粛しているので代わってスタッフが対応している。

三瀬)屋外のプログラムは、一般的な感染対策をして実施。工作などは、ひとりひとつずつセットをつくり、ツールの共有がないようにして、接触を減らす工夫をしている。

Q.イベント参加者などに自然と距離を取らせるような感染症対策の工夫をしているツールや団体はありますか

奥本)「しくみ」というデザイナーの集団。デザインを通して、間をあけるためのデザイン画をオープンソースで配布したり、DIYでついたてを作るプログラムなどを公開している。

  https://www.sikumi.org/

Q.事業の広報は、どのようにされていますか。広報の手法等で、コロナ禍で変わったことはありますか。

東)既にSNS等は行っていたので、新たに何かを活用したということはないが、多くのイベントが中止になったことで、フリーペーパーやテレビ・広報さっぽろなどから声がかかり、例年より多くメディアに取り上げていただいた。

Q.事業のモチベーション維持のために工夫されていることはありますか?

三瀬)心の距離感として印象的だったことは、プラザの展示コーナーで子ども向けの出展をしていた団体の方が、コロナ禍でいつも以上に会場に詰めていて、場を作り続けることが大事と言っていた。オンラインもいいが、できることを探して作ることを考えることも職員のモチベーションになっている。小さい子供は、オンライン参加はできないので、気軽に参加できる場づくりをしていきたい。

東)臨時休館からの再開後、来館者は少ないが、むしろ目的を持った来館者が増えたので業務量は減っていない。職員は同じ目的に向かっているので、モチベーションは問題ない。女性が多い職場にはスイーツの差し入れが効果的。

Q.「正しいリスクの認知と知見の集約」に関連して、科学技術コミュニケーションの視点も含めて、コメントをお願いします。

奥本)受講生との対応から、検索する力・情報を選び出す方法を学ぶことが大事と考え、受講内容に加えた。ゴールより、プロセスを教えることが大事と思う。やり方をまず学ぶこと。複数の選択肢から何を選択するかを教えている。

【ディスカッション】

○連携による広い事業展開について

東)一気にオンライン化が進み、頻繁に情報交換ができるようになった。交通費などの経費節約になった。組織内でメールを読むだけの一方通行だった関係性が、オンラインで意見交換ができ、他の団体との距離が近くなった。

三瀬)個人との関わりでは、オンラインで遠方の方にも講師を依頼できるようになり、経験の削減にもつながった。団体間は、現場でどうつながるかが大きい。同じ悩みを持った人と共有・協働の取り組みはできるので、オンラインで、機会やつながりを作っていきたい。

小路)ESD拠点では、繋がりはあるが、施設間の関係性が希薄なので、オンラインでもつながっていない。ネットワークはあっても機能していない例もある。道東の自然系は機能している。ネットワークをメンテナンスする人の存在の有無が大きい。

奥本)サイエンスカフェの実施をいろいろなところでやることにして、文化施設や博物館、函館などで実施した。オンラインの開催も、森の中など地域感のある場所でやってみている。オンラインでいろんなところとつながっていける可能性はある。

九州大学と福岡の博物館が連携してオンライン講座を売り出す企画を3万円で展開したところ、すぐに売れた。参加費に見合うものの提供は難しい。オンラインだからこそ、有料化のコンテンツの質と金額に見合ったパワーが難しい。来園者が減っている中で、資金源としてオンラインで何ができるのか、まだ試行錯誤が続いている。

○評価について〜数量的評価から基準が変わってきている

Q.所属する施設は、学校からの野外活動支援の依頼が、9月ごろから例年と同じくらいあった。野外の活動で子供たちに対して教科書以外から学ぶ大切さみたいなものを可視化できるような評価はできるのか?

奥本)評価軸は2つ。

これまでのオフラインの来館者数などの軸は使えない。数ではなく、施設利用の実態を表すものとして、動画再生回数や貸出回数が評価軸になるのではないか。

来館者に、体験したいと思わせる評価軸が必要だが可視化は難しい。学校のテスト的な評価では、体験のような差別化ができない。体験のプロセスを記録して、参加者がその段階でどんな発見をしたのかなど、質的事例として紹介していくことはすぐできる評価ではないか。

動物園で、最初の印象に、観察して知ったことを付け足していってもらうなど、子供たちが学ぶプロセスが評価になると思う。

○事業の中で、今後考えられる評価軸は?

三瀬)オンラインでは再生数や接続数が評価軸になるか。子どもの体験事業後、親向けにアンケートで、行動変容があったか保護者目線で聞いて見るなど、質的評価を見ていく。

東)指定管理者制度では、評価側が現場にいないので、これまで判断基準はまず数字だった。新しい指標はまだわからないが、数字的なものはある程度必要。施設単体で考えるより評価側(札幌市)と一緒に考えていくことも必要ではないか。

○行政側の意見として

・直営なので、自分たちで評価する必要がある。ワークシートの作り方、導入等子ども達との関係性で作成する必要があると感じた。

・環境プラザの運営を指定管理でお願いしているが、契約期間内に実施する事業が決まっている。管理者と運営する側の両者で話し合いながら評価基準を決める必要がある。

奥本)参加型評価で、運営・管理、参加者も含めて評価軸をワークショップで作っていく、ということもある。ステークホルダーは多様で、オンラインの成果、価値は利用者にも聞かないとわからない。評価する側の評価軸だけではなく、利用者の目線で評価することも大事ではないか。