行政(環境省)の環境情報

「地域適応コンソーシアム事業」の成果について

 環境省は、平成29年度より令和元年度の3カ年に渡り、環境省・農林水産省・国土交通省の連携事業として、「地域適応コンソーシアム事業」を実施しておりました。この度、事業の成果概要を報告するとともに、本事業の中で行った、地域における気候変動影響に関する調査結果の一部を紹介いたします。

1.事業の成果概要

 気候変動の影響は、地域の気候、地形、社会経済状況などによって異なります。また、気候変動の影響への適応は、地域の生活基盤を守ることや、地域振興にもつながることから、その地域に合った適応の取組を進めていくことが重要です。

 これらを踏まえ、環境省は、平成29年度より令和元年度の3カ年、農林水産省・国土交通省との連携事業として「地域適応コンソーシアム事業」を実施いたしました。

 全国と各地域(北海道・東北、関東、中部、近畿、中国四国、九州・沖縄)にて、地域のニーズに沿った気候変動影響に関する情報の収集及び将来予測、適応オプションに係る情報収集等を行いました。また、気候変動適応法に基づく広域協議会の前身となる地域協議会を立ち上げ、地方公共団体、大学、研究機関など、地域の関係者との連携による気候変動適応の推進体制を構築したほか、各地域の地方公共団体と連携し、気候変動適応に関する普及啓発活動を実施しました。

 本事業の成果は、国の実施する気候変動影響評価の知見として活用するほか、地方公共団体の地域気候変動適応計画の策定や適応策の検討・導入の際に活用していく予定です。

2.調査の概要

(1)全国事業

 地域適応コンソーシアム事業の共通方針として、これまでに開発された入手可能な気候シナリオの情報を収集・整理した上で、本事業で統一的に使用する気候シナリオデータを収集・整備しました。また、全国レベルの気候変動影響に関する調査として、果樹・コメといった農林水産物や国立公園等の生態系及び生態系サービス、森林生態系への気候変動影響予測および適応オプションの検討等を実施しました。

(2)地域事業

 各地域においては、農業、水産業、自然災害、自然生態系などの様々な分野の気候変動影響について、地方公共団体のニーズに応じた「地域における気候変動影響に関する調査」を実施しました。各調査においては、気候変動影響予測を実施したほか、予測結果を考慮した適応オプションを提示しました。

3.主な調査結果

 地域における気候変動影響に関する調査結果の一部を紹介いたします。なお、本事業の調査結果については、気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)にて御覧になれます。

①気候の変化や極端な気象現象による観光業への影響調査(北海道・東北地域)

【調査内容】

 今後の気候変動に伴う気温上昇や積雪量の減少、台風や豪雨などの極端な気象現象等が札幌市のイベントの開催に影響を与える懸念があるため、本調査では、将来の気候変動が札幌市のイベントに与える影響について経済的評価を行い、イベントを実施するための適応オプションを検討しました。

【調査結果(例)】

 札幌市及びその近郊の将来の積雪量を予測したところ、さっぽろ雪まつりのために現在採雪を行っている場所では、将来大幅に積雪量が減少することが予測されました。21世紀末(RCP8.5(注1))では、将来は、現在より遠方から採雪する必要が生じ、採雪コストが2018年実績の約2.2倍になる可能性があることが分かりました。

②熱中症リスクの評価手法の整理・構築(関東地域)

【調査内容】

 埼玉県さいたま市では、都市化等によるヒートアイランド現象と気候変動による気温上昇が重なることで、将来、熱中症リスクがますます高まる可能性があります。そこで、市内の地区レベルで、将来の8月の日最高気温分布および熱中症発生リスクを予測し、それぞれの地区特性に応じた適応策を検討しました。

【調査結果(例)】

 さいたま市における日最高気温分布(8月平均)の将来予測を行ったところ、現在と比較して、21世紀中頃(RCP2.6(注2))においては、最大1.8℃、21世紀末(RCP8.5)においては最大で3.4℃上昇すると予測されました。また、将来の熱中症発生リスクについては、現在と比較して、21世紀中頃(RCP2.6)で最大1.6倍、21世紀末(RCP8.5)で最大2.5倍に上昇する可能性があることが分かりました。適応策として、緑被率増加や水辺空間の確保によって地域全体の気温の低減が期待できることが分かりました。

③海面上昇等による塩水遡上の河川への影響調査(近畿地域)

【調査内容】

 京都府舞鶴市では、由良川から上水の取水を行っていますが、近年取水場付近まで塩水が遡上する現象が発生しています。今後、気候変動による海水面上昇や降水量の変化により、さらに塩水の遡上距離が延び、取水場付近の塩水濃度が高くなる可能性があるため、将来の影響予測を実施し適応策を検討しました。

【調査結果(例)】

 由良川では、流量が比較的少なく、海面水位が比較的高い場合に、塩水遡上が生じやすいことが分かりました。将来、由良川流域の総降水量は増加し、塩水遡上が生じやすい時期(5月~11月)における由良川の流量は、現在よりも若干増加する可能性があることが分かりました。一方、由良川河口の海面水位は、21世紀末(RCP8.5)では79cm程度上昇すると予測されています。それにともなって、塩水の遡上距離が現在より延び、取水場付近の塩分はより高くなくなることが予測され、防潮幕の設置等の対策を行う必要がある期間が長期化する恐れがあることが分かりました。

④海水温上昇等による瀬戸内海の水産生物や養殖への影響調査(中国四国地域)

【調査内容】

 近年、瀬戸内海の海水温が上昇しており、暖海性食害魚であるアイゴ等の北上や侵入、ワカメやノリの養殖漁業への影響が顕在化しています。本調査では、瀬戸内海におけるアイゴ等の食害魚の分布実態の調査や、ワカメ等の飼育実験等を実施したほか、将来の気候変動により海水温が上昇した場合の瀬戸内海の水産生物や養殖への影響について予測・評価し、その適応策について検討しました。

【調査結果(例)】

 瀬戸内海の主要な養殖域で越冬したアイゴによる食害の発生について、春先(3月~5月)の食害の発生割合は、現在は安芸灘で10%、備讃瀬戸で0%と低い数値ですが、21世紀末(RCP2.6)では安芸灘で100%、備讃瀬戸で20%と数値が高くなり、地域によっては食害が発生する可能性が高くなることが分かりました。また、21世紀末(RCP8.5)では、安芸灘・備讃瀬戸ともに100%となり、食害が発生する可能性が非常に高くなり、ノリやワカメなどの養殖業、海洋生態系への影響が懸念されることが分かりました。

⑤気候変動によるスイートピーへの影響調査【宮崎県】(九州・沖縄地域)

【調査内容】

 宮崎県は、冬季に晴天日が多いことを活かして、スイートピーを生産しており、その生産量は国内生産の約50%を占めています。近年、晩秋や早春の高温や曇雨天による日照不足に起因する品質低下が発生しており、将来の気候変動による影響が懸念されることから、宮崎県におけるスイートピーの生産量と気候変動との関連性を分析するとともに、将来の気候変動影響を予測し、その適応策を検討しました。

【調査結果(例)】

 21世紀中頃(RCP2.6)では、スイートピーの品質に顕著な影響はみられませんでしたが、21世紀末(RCP8.5)においては、日射量の減少等により現在と比べて月別の落蕾(注3)発生率が3~12%高くなると予測されました。また、気温上昇等の影響により現在と比べて花梗長(注4)が5cm程度短くなると予測されました。

注1 RCP8.5…現状を上回る温暖化対策をとらなかった場合。21世紀末の気温が現在に比べて約4℃上昇する。
注2 RCP2.6…21世紀末の気温上昇を現在に比べて2℃未満に抑えるよう、厳しい温室効果ガス排出削減対策をとった場合。
注3 落蕾…つぼみ(蕾)が開花しないで落下すること。
注4 花梗長…花をつける柄の部分の長さ。

 

4.その他

「地域適応コンソーシアム事業」の成果は、気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)上に掲載しています。

 (ウェブサイト)https://adaptation-platform.nies.go.jp/conso/index.html
 (成果集)   https://adaptation-platform.nies.go.jp/conso/pdf/final_report.pdf

 

連絡先

環境省地球環境局総務課気候変動適応室
代表03-3581-3351 直通03-5521-8242
室長   髙橋 一彰(内線 6780)
室長補佐 秋山 奈々子(内線 7762)
担当   田中 学(内線 7717)

引用:https://www.env.go.jp/press/108084.html