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土地は欠かせない資源、とIPCC報告書 人間と気候変動の圧力を受けながらも、解決策の一要素に(プレスリリース日本語訳)

ジュネーブ、8月8日 – 土地はすでに、人間によるますます大きな圧力にさらされていますが、気候変動はこの圧力に拍車をかけています。同時に、本日発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の最新報告書によると、地球温暖化を2°Cよりもはるかに低い水準に抑えるためには、土地や食料を含め、あらゆる部門からの温室効果ガス排出量の削減が欠かせません。

IPCC は気候変動、その影響と将来の潜在的なリスク、可能な対応策に関連する科学的知見の現状を評価する世界的機関です。今回の特別報告書『Climate Change and Land(気候変動と土地)』(SRCCL)政策決定者向け要約は7日、スイスのジュネーブで世界各国の政府による承認を受けました。

SRCCLは、9月にインドのニューデリーで開催される国連砂漠化対処条約締約国会議(COP14)や、12月にチリのサンティアゴで開催される国連気候変動枠組条約締約国会議(COP25)をはじめ、間近に迫った気候・環境関連の交渉に重要な科学的知見を提供することになります。

「各国政府は IPCC に対し、土地と気候の関係全体を初めて、包括的に捉えるよう要請しました。私たちは全世界の専門家や政府から多大な貢献を受けながら、この課題に取り組みました。著者のうち開発途上国出身者が53%と過半数を占めたのは、IPCC 報告書史上これが初めてのことです」李会晟(イ・フェソン)IPCC 議長は、このように語っています。

今回の報告書は、土地管理の改善が気候変動に寄与しうるものの、それが唯一の解決策ではないことも明らかにしています。地球温暖化を1.5°Cには届かなくとも、2°Cよりはるかに低く抑えるためには、あらゆる部門からの温室効果ガス排出量を削減することが欠かせません。

各国政府は2015年、地球の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて2°Cよりもはるかに低く抑え、さらにこれを1.5°Cとすべく努力を重ねることにより、グローバルな気候変動対策を強化するという、パリ協定の目標に支持を表明しました。

人口が増加し、気候変動の植生に対する悪影響が強まる中で、食料の安定確保を維持するためには、土地の生産性を保たねばなりません。したがって、エネルギー作物の栽培や植林などを通じ、土地を気候変動対策に活用することには、自ずと限界があります。また、樹木や土壌が実際に炭素を貯蔵できるまでには、時間もかかります。

食料の安定確保、生物多様性、土地劣化に関するリスクを回避するためには、バイオエネルギーを慎重に管理する必要があります。望ましい成果が得られるかどうかは、現地に適した政策やガバナンス・システムの採用にかかっています。

土地は欠かせない資源

特別報告書『気候変動と土地』によると、世界が気候変動に最もうまく取り組むためには、全般的な焦点を持続可能性に置く必要があります。

ジム・スキー IPCC 第3作業部会共同議長は「土地は気候システムで重要な役割を果たします」と言います。

「農林業やその他の土地利用は、人為的な温室効果ガス排出量の23%を占めています。同時に、自然の陸面過程は、化石燃料や産業に起因する二酸化炭素排出量の3分の1近くに相当する二酸化炭素を吸収します」スキー氏はこのように述べています。

また、ハンス=オットー・ポートナー IPCC 第2作業部会共同議長によると、今回の報告書は、持続可能な形で土地資源を管理することが気候変動対策にどう役立つかを示しています。

「すでに利用されている土地は、気候変動の中でも世界に食料を供給し、再生可能エネルギーとなるバイオマスを提供できますが、いくつかの領域では早急に抜本的な対策を講じる必要があります。また、生態系や生物多様性の保全と回復も図らねばなりません」ポートナー氏はこう語ります。

砂漠化と土地劣化

土地が劣化すれば生産性が下がり、栽培できる作物が制約を受けて、土壌の炭素吸収能力も低下します。そうなれば、気候変動が激しくなるばかりか、気候変動自体がさまざまな形で土地劣化を助長することになります。

「持続可能な土地利用について、私たちがどのような選択を行うかによって、こうした悪影響を削減したり、場合によっては逆転させたりする可能性もあります」こう語るのは、田辺清人・国別温室効果ガス・インベントリー・タスクフォース共同議長です。

「今後、集中豪雨が多発する中で、耕地の土壌浸食リスクは高まるため、持続可能な土地管理は、こうした土壌侵食や地滑りの悪影響からコミュニティーを守る方法といえます。しかし、できることは限られているため、取り返しのつかない土地劣化が生じるおそれもあります」田辺氏はこのように述べています。

砂漠化が起きている区域には、およそ5億人が暮らしています。乾燥地や砂漠化区域は気候変動や、干ばつ、熱波、砂塵嵐などの異常気象の影響を受けやすく、世界人口の増加がさらに圧力を加えています。

報告書は、土地劣化に対処し、さらなる気候変動を予防したり、これに適応したりするための選択肢を示しています。また、地球温暖化の異なるレベルに応じ、どのような影響が生じうるかも検討しています。

「新たな知見によると、1.5°C程度の地球温暖化でも、乾燥地の水不足、火災損害、永久凍土層の劣化や食料システムの不安定化によるリスクが増大します。」こう語るのは、ヴァレリー・マッソン=デルモットIPCC第1作業部会共同議長です。

「地球温暖化が2°Cに達すると、永久凍土層の劣化と食料システムの不安定化に関連するリスクが極めて高くなることもわかっています」マッソン=デルモット氏はこのように述べています。

食料の安定確保

気候変動に協調的な取り組みを行えば、土地や食料の安定確保、栄養の改善に資すると同時に、飢餓に終止符を打つことにも役立ちます。報告書は、気候変動が食料安全保障の4本柱、すなわち入手可能性(収量と生産)、アクセス(価格と食料確保能力)、利用(栄養と調理)、安定(入手可能性の阻害)にすべて影響を与えることを明らかにしています。

「食料の安定確保は今後、特に熱帯地方での収量低下、価格の上昇、栄養品質の低下、サプライチェーンの混乱を通じ、気候変動によるさらに大きな影響を受けることになります」こう語るのは、プリヤダルシ・シュクラIPCC第3作業部会共同議長です。

シュクラ氏は次のように述べています。「国が違えば影響も異なりますが、アフリカやアジア、ラテンアメリカ・カリブ地域の低所得国には、一層劇的な影響が及ぶことになるでしょう」

報告書は、生産される食料の約3分の1が失われるか、廃棄されていることを明らかにしています。食品ロスの原因には、先進国と途上国の間はもとより、地域間でも大きな違いがあります。食品ロスを減らせば、温室効果ガス排出量も削減され、食料安全保障が改善します。

「どのような食べ物を選択するかで、土地と水の所要量や、温室効果ガス排出量に違いが生じます」こう語るのはデブラ・ロバーツIPCC第2作業部会共同議長です。

「雑穀や豆類、果物、野菜などの植物性食品と、温室効果ガス排出量が少ないシステムで持続可能な形で生産された動物性食品を主体とするバランスの取れた食生活は、気候変動に適応し、これを抑制する重要な機会にもなります」ロバーツ氏はこのように述べています。

報告書によると、土地と食料システムに関するリスクを管理し、脆弱性を低下させる方法はいくつかあります。

リスクを管理すれば、食料システムに影響する異常気象に対するコミュニティーのレジリエンスを強化できます。具体的には、食生活を変えることや、更なる土地劣化を防ぎ、異常気象や天候不順に対するレジリエンスを高めたりするために、作物を多様化したりすることが挙げられます。

不平等を削減し、所得を改善し、食料への公平なアクセスを確保することで、一部の地域(十分な食料を生産できる土地を持たない地域)が不利な立場に置かれないようにすることも、気候変動の悪影響に適応する方法と言えます。また、リスクを管理、共有する方法もありますが、その中には早期警報システムなど、すでに導入できるものもあります。

全体として持続可能性に焦点を置き、これを早期の対策と組み合わせれば、気候変動に対処できる可能性は最も高まります。これによって人口増加率は低下し、不平等は削減され、栄養状態は改善し、食品ロスも少なくなることでしょう。

そうすれば、食料システムはさらに強靭になり、バイオエネルギーに利用できる土地は広がる一方で、森林と天然資源を守ることも可能になるでしょう。しかし、こうした分野で早期の対策を取らなければ、バイオエネルギーにさらに多くの土地が必要となり、将来の土地利用と食料の安定確保のどちらを取るかという、難しい決定を迫られることになります。

「持続可能な土地管理を支援し、脆弱な立場にある人々に対する食料供給を確保し、炭素を地中に留めつつ、温室効果ガス排出量を削減する政策が重要となります」エドゥアルド・カルボ国別温室効果ガス・インベントリー・タスクフォース共同議長は、このように語っています。

土地と気候変動対策

輸送や環境など、土地やエネルギーの領域外に属する政策も、気候変動対策を大きく前進させることができます。早期の対策は、損失を回避するという点で、費用対効果がより大きくなるからです。

「私たちがすでに実施している対策もあります。私たちはテクノロジーやグッドプラクティスを活用していますが、その規模を拡大し、まだ活用されていない適切な場所でこれを利用することが必要です」こう語るのは、翟盘茂(ジャイ・パンマオ)IPCC 第1作業部会共同議長です。

「より持続可能な土地利用で、食料の過度な消費と食品ロスを抑え、森林の伐採と焼き払いをなくし、薪の過剰採取を防ぎ、温室効果ガス排出量を削減することによって、土地関連の気候変動問題への取り組みに実質的に貢献できる可能性があります」翟氏はこのように述べています。

報告書について

報告書の正式名称は『Climate Change and Land, an IPCC special report on climate change, desertification, land degradation, sustainable land management, food security, and greenhouse gas fluxes in terrestrial ecosystems(気候変動と土地:気候変動、砂漠化、土地の劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障および陸域生態系における温室効果ガス・フラックスに関する IPCC 特別報告書)』となっています。

今回の報告書は、IPCC が現在の第6次評価報告書サイクルで作成する3件の特別報告書の1つです。

報告書は、3つの IPCC 作業部会すべての学術的リーダーシップのもと、国別温室効果ガス・インベントリー・タスクフォースとの協力と、第3作業部会技術支援ユニットによる支援を受けて作成されました。

さらに詳しい情報については、下記にお問い合わせください。
IPCC Press Office
メール:ipcc-media@wmo.int
Werani Zabula
電話:+ 41 22 730 8120
Nina Peeva
電話:+ 41 22 730 8142

IPCC Working Group III Technical Support Unit:
Sigourney Luz
電話:+44 20 7594 7377

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編集者向け注記
特別報告書『気候変動と土地』

『気候変動と土地』は、IPCCの第6次評価サイクルで作成を予定する一連の特別報告書の第2弾に当たります。本報告書は、3つのIPCC作業部会すべてによる共同の学術的リーダーシップのもと、国別温室効果ガス・インベントリー・タスクフォースとの協力と、第3作業部会技術支援ユニットによる支援を受けて作成されました。

政策決定者向け要約では、気候変動と土地について入手可能な科学的、技術的、社会経済的文献の評価に基づき、特別報告書の主な調査結果を提示しています。

特別報告書『気候変動と土地』(SRCCCL)政策決定者向け要約は、https://ipcc.ch/report/srccl[別窓]で入手できます。ファクトシートとヘッドライン・ステートメントは、www.ipcc.ch[別窓]で入手できます。

特別報告書『気候変動と土地』に関する主な統計

報告書は52カ国の専門家107人によって作成されました。その内訳は下記のとおりです。
– 調整役代表執筆者15人
– 代表執筆者71人
– 査読者21人

本報告書はIPCC報告書としては初めて、開発途上国の著者が全体の過半数(53%)を占めています。調整役代表執筆者の40%は女性です。

著者チームは、寄稿者96人からの寄稿を受け、7,000点以上の参考文献を報告書で引用したほか、専門家と政府からの査読コメント計2万8,275件を検討しました(1次ドラフト1万401件、2次ドラフト1万4,831件、最終政府ドラフト3,043件)。

IPCCとは

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動に関連する科学的評価を担当する国連機関です。気候変動、その影響と将来的なリスクの可能性に関する科学的評価を政策決定者に定期的に提供するとともに、適応と緩和の戦略を提案することを目的に、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)が1988年に設置しました。国連総会は同年、WMOとUNEPによるIPCCの共同設立に支持を表明しました。IPCCには195カ国が加盟しています。

IPCCによる評価報告書は、あらゆるレベルの政府に対し、気候変動政策を策定するために利用できる科学的情報を提供します。IPCCの評価は、気候変動に取り組むための国際交渉で重要な参考資料となります。IPCCの報告書は数段階に分けて起草、審査されることで、客観性と透明性が保証されています。

IPCCは、毎年発表される数千点の科学的論文を評価し、気候変動関連のリスクについてわかっていることと、わかっていないことを政策決定者に伝えます。IPCCは、科学界で合意が見られる点、意見の相違が見られる点、そしてさらに研究が必要な点を明らかにします。独自の研究は行いません。

IPCCはその報告書を作成するため、数百人の科学者を動員しています。これらの科学者や担当者は、多種多様な背景から選ばれます。IPCC事務局の常駐スタッフはわずか12人です。

IPCCには3つの作業部会があります。第1作業部会は気候変動の物理科学的根拠を、第2作業部会は影響、適応および脆弱性を、そして第3作業部会は気候変動の緩和をそれぞれ取り扱います。また、排出量と除去量測定の方法論を開発する国別温室効果ガス・インベントリー・タスクフォースも設けられています。

IPCC評価報告書は、3つの作業部会それぞれによる報告と統合報告書から成っています。特別報告書は、複数の作業部会にまたがる学際的課題の評価に取り組むもので、評価報告書よりも短く、焦点を絞ったものとなっています。

第6次評価サイクル

IPCCは2015年2月の第41会期において、第6次評価報告書(AR6)の作成を決定しました。2015年10月の第42会期では、この報告書と、第6次評価サイクルで作成すべき特別報告書に関する作業を監督する新たなビューローを選出しました。2016年4月の第43会期では、AR6のほか、3件の特別報告書と1件の方法論報告書の作成が決定されました。

IPCCはケニアのナイロビで開催された第43会期(2016年4月11~13日)で、加盟国とオブザーバー機関が現在の第6次評価報告書サイクルにおける特別報告書の潜在的テーマに関する見解を提出するよう要請されたことを受け、この報告書の作成を決定しました。土地、都市、海洋を含む様々なテーマに関する9つのクラスターが検討されました。特別報告書『気候変動と土地』は、2番目に大きなクラスターとなっており、加盟国とオブザーバー機関から出された土地に関する7件の提案を対象としています。

IPCCは昨年、特別報告書『1.5°Cの地球温暖化』を発表し、気候変動の脅威へのグローバルな対応強化と関連づけながら、産業革命以前との比較で1.5°Cの地球温暖化と、関連のグローバルな温室効果ガス排出量の動向について検討を加えました。2019年9月、IPCCは『Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate(変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書)』を発表する予定です。

2019年5月には、方法論報告書『2006年国別温室効果ガス・インベントリーに関するIPCCガイドライン2019年精緻化版』も発表されました。2019年精緻化版では、国別温室効果ガス・インベントリーの作成を裏づける最新の科学的根拠を提供しています。2019年精緻化版の作成には、280人を超える科学者と専門家が取り組み、一般的指針のほか、エネルギー、産業プロセスと製品使用、農林業その他の土地利用、廃棄物という、4つの部門に関する方法論に多くの変更を加えました。

AR6統合報告書は、2021年に3つの作業部会からの報告を受け、2022年の前半にまとめられる予定です。

IPCCは次回の評価サイクルで、気候変動と都市に関する特別報告書を作成する予定です。現サイクルの報告書にはすべて、気候変動が都市に与える影響や、都市独自の適応と軽減の機会に関する評価が、より多く盛り込まれています。

IPCC報告書へのリンクを含め、さらに詳しい情報については、www.ipcc.ch[別窓] をご覧ください。

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インタビューのお申し込みは interviews@ipcc.ch までご連絡ください。

さらに詳しい情報については、Dan Shepard(shepard@un.org)までお問い合わせください。

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引用:https://www.unic.or.jp/news_press/info/34315/