環境学習施設等機能強化プロジェクト

【開催報告】環境学習施設の可能性を考える  第5回 指定管理者制度を活用した小規模博物館の活性化~高槻市立自然博物館の事例に学ぶ

地方自治体による公共施設のサービス向上策として2003 年に導入された「指定管理者制度」ですが、一方で予算削減や運営評価などをめぐりさまざまな課題が指摘されています。こうした中で、高槻市立自然博物館「あくあぴあ芥川」(大阪府高槻市)では、地域のNPO と博物館運営のノウハウを持つNPO が連携し、古い施設をさまざまな工夫により魅力的な体験・学びの場として事業展開しています。今回は、同博物館主任学芸員の高田みちよさんにお越しいただき、その経緯と到達点、課題等をお聞きしました。

勉強会の様子

[日時] 2018年11月21日(水)14:00~16:00

[会場] 札幌市環境プラザ環境研修室

[主催] 環境中間支援会議・北海道、北海道大学総合博物館、CISEネットワーク

ゲスト 高田 みちよ さん(高槻市立自然博物館主任学芸員)

大阪市立大学前期博士課程理学研究科生物学専攻卒業。建設コンサルタント環境調査部門に従事後、2003年に芥川緑地資料館(現高槻市立自然博物館(あくあぴあ芥川))の管理委託財団にアルバイトとして就職。同館飼育係(臨時雇用職員)を経て2009年~指定管理者「あくあぴあ芥川共同活動体」の主任学芸員(年次雇用職員)として、保全生態学、鳥類、維管束植物等を担当。小規模ミュージアムネットワーク事務局、芥川・ひとと魚にやさしい川づくりネットワーク(芥川倶楽部)アドバイザー、NPO法人日本バードレスキュー協会副理事長などを務める。

1.講演要旨

経緯

 「あくあぴあ芥川」のある高槻市は大阪市と京都市の中間に位置し、南北を貫く淀川支流の芥川に地理が特徴づけられている。施設は1994年の公園緑地整備に伴い資料館として開設され、当初は直営で運営されていた。最初は博物館条例はなく、都市公園条例に基づく施設だった。97年に市の公営施設管理公社に運営委託され、2006年に同公社がそのまま指定管理者に移行した後、2009年の第2期目から私たちが管理運営を担っている。開設3年目から入館者がかなり減り、存続の是非も検討されたと聞くが、その頃市が実施した市民アンケートでは市民の6割が施設の存在を知り、7割が満足している、との結果が出され、自然をテーマに継続運営させることとなった。

 その頃、大阪府から川を活かした地域づくりの打診があり、アユをシンボルとした川づくりを目標に、2005年に「芥川・ひとと魚にやさしい川づくりネットワーク」(NPO法人芥川倶楽部)が設立された。そこから「芥川創生基本構想」(2006年)が策定され、あくあぴあが拠点施設と位置付けられた。そのような中で、市から指定管理の打診があり、NPO法人大阪自然史センターと「あくあぴあ芥川共同活動体」を組織して指定管理者となった。博物館運営や教育事業のノウハウを持つ大阪自然史センターが経理や納税などの管理業務を担い、芥川倶楽部は実質的な館の運営と、前述のネットワークと施設をつなぐ役割を果たしている。指定管理料は当初4900万円で、消費税導入等に伴いあがっている。自主財源は自販機とミュージアムショップの売り上げ約60万円により、外来種駆除等の指定管理事業以外の事業を行っている。

施設の活動紹介

 施設は斜面に張り付く4階建ての構造で、標本展示している1階の鳥類の剥製は関西一の展示数を誇る。4階入口をスタッフ知人のデザイナーがボランティアで子ども向けのデザインにしたり、ベンチにつくられた蜂の巣などをそのまま展示とするなど、自分たちでできる範囲のイメージチェンジを行っている。調香師によるアメンボの臭いの再現、ワニの化石のレプリカの作成、時代の長短を意識させる地質年代のパネルなど、ユニークな展示を作成してきた。大きな水槽が3つあり、バックヤードが充実している。管理はたいへんだが、床に都市計画図を貼って手作りで地図を展示した。他に、「ハカセの部屋」として、業務デスク、パソコン、図鑑等で研究者の模擬体験ができたり、ハンズオン展示、子供向けコーナー、「セミマント」などの着ぐるみ、箱の中に塗り絵などが入った「わくわくボックス」などを手作りで作成している。ミュージアムショップでは、芥川の本や缶バッチなどのオリジナルグッズを販売している。事務スペースは職員13人に対して机は8台しかおけず、共用している。今は「ひっつきむし」の企画展を実施中。一方、基本事業である博物館業務として資料収集を実施しているが、収蔵庫がなく、シャワールームを改修して活用している。観察会や講座も定期的に実施し、博物館では珍しい「おはなし会」もやっている。赤ちゃんのときから来ていただくよう母子手帳サイズのリーフレットを作成し、図書館の事業と連携して配布している。

 11の「部活プロジェクト」を立ち上げ、活動している。ハチの標本をつくる「チームボンドガール」、「芥川たのしみ隊」などがあり、完全に自主的な活動もある。ネットワーク事業として「小規模ミュージアムネットワーク」を立ち上げ、事務局を担っている。会費も組織もなく、世話人とメーリングリストだけの緩いネットワークだが、毎年「サミット」を開催して多くの博物館スタッフが交流している。他にも、博物館関係のネットワークや学会、生物各分野のネットワークに参加している。知名度が低かったので、広報にも力を入れた。働いていて恥ずかしくない館にしたいとの思いがスタート時の原動力である。

指定管理運営のメリット

 第一に、人材が揃えられること。市の人事ではなく、自分たちで専門性を持った人を雇うことができる。第二に、ミッションが明確であること。「高槻の自然がわかるみんなの博物館」をコンセプトとしている。第三に、スタッフが少ないので小回りが利く。スタッフ全員のミーティングで意思決定を行い、事務も簡素化できている。

 キーワードをならべると、「理念の共有」=高槻の自然がわかるみんなの博物館、「あるべき姿」=「放課後博物館」・「地域診療所」、「めざすもの」=気づき・身近、「運営」=直接民主主義(ミーティングで全て決める)。

 「小規模ミュージアムネットワーク」も今のスタッフだからできた。行政ではできない主婦の知恵的な施設整備・改良もできている。学会で教授に突然講座開催を提案され、即決したことで実施できた。資材購入等も、ネット買いや店舗買いができる。報告は必要だが費目別予算は目安であり、費目間流用は厳格ではない。

課題

 予算(指定管理料)は少ない。限られた人件費をシェアしている状況。修繕などのリスク分担に関し、50万円以上は市側の負担だが予算措置の関係で必ずしも修繕できない。また、職員は全員が年度雇用。年収を十分に確保できずアルバイトしているスタッフも多い。また、公園の管理事務所に間違われることも多く、博物館の管理区域外のトラブルにも悩まされる。公園利用者のマナーの悪さも問題。他にも、市との連携、事務量増(光熱水費の報告、修繕の申請、自販機販売量の把握等)、も課題である。今後に向けて、市としてミッションを共有し、予算や修繕等必要な措置の検討が望まれる。

 施設運営において最も重要なことは「担当者次第」であること。モチベーションが大切。スタッフが生活を支えるお金は必要だが、自分で考えて行動できること、同じ立場(全員NPO)の人間しかいないこと、お客さんが客が喜んでもらう、人に褒められることなどが重要。楽しい職場でよかったと思う。ぜひ、一度来ていただきたい。

勉強会の様子

 

2.質疑応答要旨

Q  行政の環境教育や外来種の担当者と一緒に仕事をすることはあるか?

A よくある。市の環境市民大学の講師など。こちらから、お願いして見学してもらうことも。

Q 11ある部活と館のかかわりについて。何人くらい?コーディネートは?今後は?

A あくあぴあ主催の観察会や遊歩道をつくるおじさんの会など、一元的に見られるように部活を作った。参加方法がわかるところ、わからないところなど、温度差を埋めたかった。お掃除の部活は完全に自主的に活動している。規定としてはあくあぴあの承認を得ることくらいしかなく、部長次第。一つの部10~50人くらいで延べ人数はわからない。ブログの日程更新が面倒だが、今の形で満足している。部員たちの自主性が上がるとありがたい。

Q 学校教育との関係について、市の教員への研修は?学校の受け入れは状況は?

A 先生の意向によりいろいろ。熱心な先生とは長時間つきあい、そうでなければある程度お任せになる。市の教育研究会の理科部会とは連携を取っている。大阪府の水辺の楽校に講師を派遣している。41校あるので出張は無理。来てもらうとありがたいが、給食の問題もあり難しい。

Q 学校の先生から頼りにされている?

A それほど頼られてない。広報はしているが。どうすればよいか悩んでいる。校区によって条件も違う。

Q 子どもワークショップの開催時間やスタッフ体制、作り方は?

A 月2日間(土日)に大阪自然史センターからスタッフを派遣してもらう。道具はこちらで用意する。企画展ごとに関連するものをやりたい。プログラムがないときは一緒につくる。アンケートは取っていない。意見交換、対話を重視しており、どんな反応はその場でわかる。振り返りに1時間くらいかける。

Q 運営について、入館料はとるつもりはないか?開館時間の延長対応は?

A 無料であることがよいと言われる。出入り口が4ヶ所あり、そこにスタッフを置くにはお金がかかる。子供だけが無料という館では親は外で待ち、子供のみが入館することも考えられるため、現場スタッフはこれでよい。

Q 利用者アンケートはとらない?

A アンケートは好意的に書かれるのであまり参考にならない。

Q 外部収入を入れられるか?

A 今まではダメだったが、今年からOKとなった。大学への出講は団体に振り込んでもらった。ここまで5年位かけて交渉してきた。出張講演すると残されたスタッフの誰かに負担がかかる。留守番する人の日当くらい稼ぐことが必要。

Q 事業の評価指標は?

A 日本博物館協会のチェックリストを用いている。来館者数が少ないこと自体は問題視していない。ワークショップは1回8名、工作教室はレストラン方式だが、手厚いほうが人数は少なくなる。

Q 市の監査でどのような指摘がある?

A 例えば、ミュージアムショップの人件費が指定管理料から出ていることへの疑義などがある。もちろん、サービスカウンターは販売だけの場所ではなく、いろいろな説明や対話の場であることも説明している。

Q スタッフの年齢層は?5~10年後もやっていけるか?人材発掘は?

A 最高齢は75歳。一番若手は22歳。学芸相当者は35~60才。新しい人を入れたいが、誰かがやめなければならない。今は昆虫担当のアルバイトを募集をしている。

質疑応答の様子