【開催報告】「札幌圏での大規模災害対策を学び、考える」連続セミナー第3回(札幌 2017/2/23)第4回(札幌 2017/3/2)
私たちは北海道での災害にどのように備え、つながるのか
「札幌圏での大規模災害対策を学び、考える」連続セミナー第3回(2/23)・第4回(3/2)は、「私たちは北海道での災害にどのように備え、つながるのか」と題し、一般社団法人Wellbe Design 理事長の篠原辰二さんの講演と演習指導により開催しました。普段、篠原さんは、地域福祉、コミュニティづくりの推進に取り組み、暮らしにくさを抱えている方へのケアや、町内会や民生委員、児童委員等、支援者の支援を行っています。
災害発生時には「災害ボランティア活動支援プロジェクト会議(支援P)」からの派遣要請を受けて現場に向かいます。平成28年は災害が多く、被災地支援が仕事の中心になっていました。3月までは、東日本大震災の復興支援。これは支援Pから5年の期間で要請のあったもの。4 月から8月末までは熊本地震の対応に奔走し、その後は10月中旬まで北海道における台風10号被災地の支援。11月からは南富良野町の依頼を受け、被災者支援のアドバイザーを務めていらっしゃいます。
1.第3回セミナー
■「被災する」とは
災害時に、個々人が所属先で何ができるのかを考えることは、備えやつながりを考えるきっかけになります。第3回では、「災害に備える」ことを考える前に、「被災する」ということはどういうことなのか、自分自身に災害が起きたとき、日々の生活がどうなるのか、身をもって考えることからスタートしました。
家が壊れたり、怪我を負ったりするのはイメージしやすいことです。しかし被災すると「物理的な側面」や「肉体的な側面」だけではなく、「精神的な側面」「経済的な側面」「情報に関する側面」など、様々な側面からダメージを受けると篠原さんは説明します。ダメージを軽減するためには水害や揺れにどう対応するか、泥をどうするかよりも、暮らし全体を整えていくために備えをしていく。地域の防災対策には、一人ひとりの暮らしを見つめなおす必要がある」と指摘します。
暮らしを見つめなおす際、参考になるものが、旧経済企画庁(国民生活局)が都道府県別に取りまとめた「新国民生活指標」、通称「豊かさ指標」(1992-1999)。私たちの生活領域を「住む」「費やす」「働く」「育てる」「癒す」「遊ぶ」「学ぶ」「交わる」の8つに区分しています。
セミナーではこの8つの生活領域を頭に置きながら、自分にとって「かけがえのないもの」を書き出すワークを行いました。災害は理不尽に「かけがえのないもの」を奪っていきます。それをイメージするために、篠原さんとのじゃんけんで負ける度、ひとつずつ「かけがえのないもの」を消していきます。紙面上とはいえ、とても辛い思いがこみ上げてきます。
篠原さんは「自分自身の中にもある、かけがえのないものを守ることが大切。災害が起こったときに、一人では守れないものもある。それではどのように備えればいいでしょう」と問いかけます。「それを災害対策として考えていくことが必要です。防災訓練も重要ですが、地域において、それぞれの人たちの大切なものを守っていく観点があるかないか、これは大きなポイントです」。
※災害ボランティア活動支援プロジェクト会議(支援P)
http://www.shien-p-saigai.org/
※全国社会福祉協議会,2011「東日本大震災 被災地社協における被災者への生活支援・相談活動の
現状と課題~大規模災害における被災者への生活支援のあり方研究報告書~」
http://www.shakyo.or.jp/research/11support.html
■ 災害支援はどこで行われるのか
一人では「かけがえのないもの」を守るのに限界がある。では、災害時に「かけがえのないもの」を一緒に守ってくれる支援者がどこにいるのか、考えを深めていきます。
例えば「避難所」であれば、たくさんの被災者がいて、ボランティアなどの支援者も集まっています。一方で、被災者が、被災時からずっといるのは「一般住宅」です。熊本地震では「車中泊」の方も多くいました。被災者かどうか見えにくい点では「仮設住宅」についても同様です。グループホームなど「福祉施設」では、日常からの支援者が多くはいるものの専門家などの支援は薄く、在宅の方はさらに大変な状況に置かれます。居どころの違いによって、支援に格差があります。手薄になるところを支えていくことが重要だと、篠原さんは指摘します。
また、現状では「避難所」ありきの防災対策が進められていますが、被災者が避難所に集中することで、感染症などのおそれも生じます。特に人口が多い都市では対策のあり方を考えていく必要があります。ボランティアは、避難所だけではなく現地全体を見て、専門家が活躍する時期の後、被災者の居どころにあわせた生活などの支援、コミュニティづくりの支援を取り組んでいくことが必要です。
■「災害時系列ワーク」の実施
これまでの講義を踏まえ、災害被災地で起こりうること、想定される行政や住民、多様な支援者の動きを疑似体験し、全体像について理解するため、一般社団法人Wellbe Designが開発した「災害時系列ワーク」を実施しました。
「被災地で、自治体はどのような対応を迫られ、住民はどのような状況におかれるのでしょうか。だれもが被災している中では、地元の 自助・互助・共助・公助の力だけでは支えきれないのが現実です。あなたの所属機関では『どのタイミングで』『だれに対して』『何ができるのか』を考えてみましょう」と篠原さんが呼びかけ、ゲームを開始。
時系列カードには青いカードと赤いカードがあり、青いカードには行政機関が発表する気象に関する情報や災害対策本部の活動内容が書かれています。これは平成24年度の九州北部豪雨災害の際、実際に行われた内容を基にして作成しています。赤いカードには、地域の住民が置かれる状況などが書かれています。各グループで、青いカードの流れに沿って赤いカードを配置し、さらに自分たちができることを付せんに書き、時系列に加えていきます。「一人ひとりができることを結集すれば、暮らし全体への支援ができる。つながれば支援を求める相手がより明確に見えてきます」と篠原さん。
第3回の最後のセッションでは「災害対策基本法」と「災害救助法」を紹介。住民自身が災害ボランティアセンターを立ち上げることができるなど、重要な内容を含む法律ですが、法律だけでは「かけがえのないもの」すべてを守ることはできません。「かけがえのないものを、住民自ら守るために、自分も関われる取り組みを考えていく必要がある」ことを確認し、第3回セミナーを終了しました。
2.第4回セミナー
■ 復旧・復興のための「つながり」
第3回セミナーのふりかえりを行った後、復旧・復興をイメージしたグラフを読み解くところから、第4回は始まりました。グラフの線が表しているのは「住民の力」。災害時には「住民の力」ががくんと低下します。篠原さんは、低下した「住民の力」がだんだん高まってくることが「復旧」していくということ、もとの力に戻ることが「復興」だと説明します。
防災の目的は、低下した「住民の力」が元に戻るまでの時間を短くすること。いち早く支援者に来てもらうことも、住民の力を弱めないことも防災です。復旧・復興には支援の力が必要ですが、支援の力に対する依存を招くこともあります。また「住民の力」の高まりがない中で、支援が一方的に途絶えることもあります。
いろいろな事態が起こる中で、いかに復興を遂げるための「つながりをつくる」か。それが第3回目のテーマです。篠原さんは、まず具体的に、平成26年8月の広島土砂災害の支援の際、「土地家屋調査士」や「保険労務士」「税理士」等のメンバーが、専門性があるゆえに「視点の違い」を埋めることに労力がかかったという事例を紹介。暮らし全体を支える視点から支援活動を展開することが難しかったと解説します。「医療関係者からボランティアまでつなげていかないといけないが、そこができていない」、「連携には互いの違いを乗り越えるための仕組みの変更や工夫が重要」と強調します。
■ 連携を考える
例えば、災害時に「連携して!」と言われて、突然、連携ができるわけではありません。「つながっている」状態になるためには、つながりを生むための工夫が必要です。篠原さんは「連携」とは「連絡」ができ、かつ「提携」している状態であると確認。また「協働」とは、それぞれが主体性を持ち、「お互いの違いを乗り越えて何かの目的を達成していくこと」であり、一緒であることや、同じ状況・立場であることを表す「共同」や「協同」とは一線を画していると読み解きます。
それでは私たちは、自分自身が持っている特技などを生かしながら具体的に、協働によってどのように災害時の課題を解決していけるでしょうか。それを実際に考えるために、篠原さんから3つのテーマが提示されました。「このテーマは実際に被災者の方からあがった声です。唯一の答えがあるわけではありません。町内会の役員として解決策を考えてください」。大切なのは連携・協働の視点です。「『できない』ですませている現状もあるかもしれません。自身では解決できないものを、だれとどのように協働して、どう行えばいいでしょうか」。
第3回セミナーで共有されたアイデア等も参考にしながら、3つのテーマについて20分間で考えました。いくらでも時間をかけて考えることはできますが、実際の災害の現場では、一つひとつじっくり検討する時間はありません。しかし平時から、このような支援ができる、受けることができると分かっていれば、実際の時間を短くすることができます。
■「つながる」を阻害する要因
篠原さんは「暮らし全体を支えるためには連携が大切だ」と強調します。「1人よりは2人。2人いれば2人以上のことができる。自分が気付いていない価値が発見され、相乗効果が生まれることもあります」。
連携相手が見つからないということもあるかもしれません。しかし、篠原さんは、その原因はコミュニケーション不足ではないかと言います。文句を言われるんじゃないかと連携に対して消極的、時には恐怖心さえ抱いたり、自分たちでなんとかするからと課題を抱え込んでしまったりすることも。特にこれは、行政の職員等に多く見られる傾向だとのこと。
あの人は行政職員だから、あの人は男だから、女だからといった、個人の価値観による無意味なレッテル貼りは、連携の阻害要因に他なりません。また一方で、例えば個人情報等について、「非常時であろうがなかろうが、ルールだから」と、過度に守ろうとする姿勢も阻害要因になります。偏見や頑なな態度を捨て去り、つながるための工夫をしなければなりません。
■「つながる」工夫を
では、どのようなことが「つながる」工夫になるのでしょうか。連絡先を知っているかどうか、メーリングリストがあるかどうかということではありません。例えば、連携協働を生み出すためには「意図」を明確にすることが重要です。機能しているネットワーク、機能していないネットワークの違いは、そこにしっかりした「意図」があるかどうか。そしてそれが、主体的な動きにつながっているかどうかです。
昨年、篠原さんは、あらためて、ネットワークを考える研修会を行いました。その際、問題提起したのが「主体的に関わっていない団体は必要なのか」という点でした。この課題を解決するためには、そもそも論として、なぜネットワークに加盟しているのかという「意図」を表明してもらおうとの考えに至り、意思の再統一を促してきました。
災害は残念ながら、必ずやってくるものです。「今回のセミナーでの出会いから新たな連携が生まれ、それぞれの地域の防災、仕事、活動につながることを期待します。災害が起こったときには、ぜひお付き合いいただきたい」と篠原さんから締めくくりの言葉がありました。
また、セミナーに参加されていた札幌市社会福祉協議会や、セミナーの協力主体である認定NPO法人北海道市民環境ネットワーク「きたネット」の方からも、会場の皆さんに簡単に取り組みの紹介等をいただきました。
平成28年度に全4回で企画してきた連続セミナーも、避難所運営ゲーム北海道版「Doはぐ」の開催を控えつつ、一旦終了。知識や人脈の蓄積が、地域のしなやかな強さを高める、次の一手に結び付いていくことを願います。
☆第1回の開催報告はこちら
https://epohok.jp/act/info/6830