気候変動教育連続勉強会

【開催報告】ESD for 2030学び合いプロジェクト 気候変動教育連続勉強会 第9回「若者のシビック・アクションを促進する気候変動教育とは? ~他者協働・社会参画アクションのすすめ~」

2050年脱炭素社会の実現に向けて各分野で必要とされる人材像を共有し、その育成・輩出に向けた体系の確立や推進戦略の構築に向けて、国内外の「気候変動教育」に関する動向や事例を学びます。この度、第9回を開催しました。

※ この勉強会は、環境省・文部科学省が中心となって進めている「ESD(持続可能な開発のための教育)推進ネットワーク」による「ESD for 2030 学び合いプロジェクト」https://esdcenter.jp/2022/07/2030manabiai/  の一環として実施します。

開催概要

[日  時] 令和4年12月13日(火)14:00~15:30
[開催形態] オンライン会議システム「zoom」を使用
[参 加 者] 40人
[主  催] 北海道地方ESD活動支援センター(環境省北海道環境パートナーシップオフィス)

内容

気候変動対策を進め、パリ協定で合意した野心的な目標を達成するためには、私たちの社会システムそのものを持続可能なものへと大きく転換する必要があります。こうした社会の大転換を促すには、個人でのアクションだけでなく、他者と協働し、社会に参画するシビック・アクションをより強く促進することが重要です。今回の講師の森先生は、これまで実施してきたシビック・アクションの行動要因やプロセスに関する研究の成果をもとに、中高生向けの教育プログラムを2つの学校で現在試行しています。第9回勉強会では、シビック・アクションに関するこれまでの研究成果を解説するとともに、中学校での実践から見えてきた課題や成果についてご報告いただきました。

[講師] 森朋子 さん(国士舘大学 政経学部 政治行政学科 専任講師)
  博士(環境学)。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士後期課程修了。㈱三菱総合研究所、国立研究開発法人国立環境研究所等を経て、現職。教育関係者や非営利団体と協働しながら、環境問題に対するシビック・アクションを促進する教育プログラムの開発に取り組んでいる

講演資料はこちら
https://epohok.jp/wp-content/uploads/2022/12/221213_CCE91.pdf

動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=GhftH7Qdw6M

質疑応答

Q. 集団行動モデルはどのように作成されたのでしょうか。たとえば、モデル生成のための少数事例を基にした質的研究などがもとになっているのでしょうか。

A. 個人での環境配慮行動にどのような心理的要因が効くのか、という研究は既に多くの事例が報告されています。ですが今回の研究対象は集団での環境アクションですので、既存研究では説明できない要因があると考えられました。そこで政治に関する行動(投票に行く、選挙の時に候補者の話を聞きに行く、政治的な行動に対しての研究など)や、ボランティア行動、女性の人権活動、労働組合の活動等、環境分野以外で実施されている集団でのアクションに着目し、どのような心理要因が指摘されているのかを参考にしました。こうした他分野での研究において、集団でのアクションに影響を与えるといわれている心理要因を環境行動モデルに入れてみて、どれが効きそうかということを研究しました。

 

Q. 「生きていく市民」という観点が強調されていたかなり昔の「市民教育」や「市民たる教育」と、先生の研究との相違点について、お聞かせください。

A. まず、従来のシチズンシップ教育についてイギリスや欧米ではたくさん研究も実践もされていますが、日本では主流化はしていません。

私の研究の比較的新しい点はトランジションと絡めたときのシチズンシップの在り方、という点だと考えています。日本はゴミ拾いをすることや暴動を起こさないというようなシチズンシップに長けていますがそういうことではなくて、これから気候変動が訪れて世の中が大きく変わっていく時に、必要に応じて新しい制度を作るといった変化を生み出すような、アクティブなシチズンシップをどう育むかが重要になってくると思います。この部分を教育というアプローチで補強できるならどうすべきか、という研究発表でした。

 

Q. 教育現場が大きなシビック・アクションを起こしたり、後ろから背中を支えるような場所になったりしうるのかなと感じました。教員や事業づくりを行う方たちに、どういったマインドが必要だとお考えでしょうか。
A. うまくいっている事例の学校では、「教える」というマインドから離れているように感じます。総合学習、探求学習という時間で発達段階が上がれば上がるほど、生徒に大部分を任せています。生徒はずっとグループで話し合い、考えて動きます。教員はサポートをしますが教えることはせず、生徒があまりに困ったりほかの人に迷惑をかけるようなことを言い出したりした時だけストップをかける、とのことでした。

 

Q. 環境教育におけるシビック・アクションの考え方やそれに基づく実践など、新しい取り組みを継続させていくためのポイントに関して、どのようにお考えでしょうか。

A. とても長く続いている事例で共通しているのは、教員に軸があるのではなく仕組みやカリキュラムに軸があることです。また、若手の先生へのバトンタッチが上手なことです。取り組みを立ち上げた先生は思い入れが強いのでずっと握っていたくなると思いますが、そこをあえて手放す仕組みを入れているというケースがよく見られました。

 

Q. 今後アクションする人材を育てるためのプログラムを作る、とのことでしたが、少人数のリーダーを育てるのでしょうか。それとも環境問題に対し、リアクティブな人材を育てたいのか。研究の目標を聞かせていただけますか。

A. 実はこのプログラムのねらいはリーダー教育というよりは、フォロワーになるサポーター層を増やすことです。これまで環境分野でアクティビストと呼ばれる人たちはたくさんいましたが、社会の半数ぐらいが波に乗るようなムーブメントにはなっていません。「どうせ自分は先頭に立てないから関わらない」ではなくて、「こういう応援をしよう」というように、今自分ができる範囲でリーダーを支えるための具体的なアクションを知ってほしいというのがねらいです。

 

Q. シビック・アクションを促進する気候変動教育を実践する上で、学校以外のセクター(NGOなど)の関わりについてはどのようにお考えでしょうか。

A.  それぞれの学校でやりたいテーマは生物多様性や食品ロスの取り組みなど、必ずしも気候変動だけではないので、学校の先生だけでは難しいと思います。また、なるべく学校の近くでいろんな分野の実践をやっている方(NGOの方、いろんな得意分野を持った研究者の方など)に関わっていただき、実際にその活動をしている姿を見せられるのが理想だと思います。中間支援の立場の方に学校以外のセクターと学校をつないだり、コーディネートしてもらったりできればと考えています。

シチズンシップ教育、シビック・アクションを促進する教育の実践として、質問の主導権を生徒に渡し「なんでも応えるよ」というアプローチをぜひ大切にしていただきたいです。