気候変動教育

【開催報告】気候変動教育連続勉強会 第5回「学校教育とNPOの連携による学習の仕組みづくり」

2050年脱炭素社会の実現に向けて各分野で必要とされる人材像を共有し、その育成・輩出に向けた体系の確立や推進戦略の構築に向けて、国内外の「気候変動教育」に関する動向や事例を学びます。この度、第5回勉強会を開催しました。
※ この勉強会は、環境省・文部科学省が中心となって進めている「ESD(持続可能な開発のための教育)推進ネットワーク」による「ESD for 2030 学び合いプロジェクト」 https://esdcenter.jp/2021/07/starting_manabiai_project/  の一環として実施します。

開催概要

[日時] 2021年10月21日(木)16:00~17:30
[開催形態] オンライン会議システム「zoom」を使用
[参加対象] 気候変動教育の実践者・関係者、関心をお持ちの方
[定員] 54人
[主催] 北海道地方ESD活動支援センター(環境省北海道環境パートナーシップオフィス)

内容

第5回は、NPO・学校・教育行政等の連携によりプログラムを確立し、いちはやく県内・市内全域の学校で大規模に気候変動に関する学習を展開している京都市と静岡県での実践事例をご紹介いただきました。そのほか、学校での学習定着に至るまでの調整や課題解決のプロセス、学校とNPOの連携構築のポイント等、気候変動教育の本格的な導入にあたり必要となる条件についてお話いただきました。

(1)京都市における温暖化防止教育プログラム「こどもエコライフチャレンジ」の展開 
[講師]豊田 陽介 さん(特定非営利活動法人気候ネットワーク上席研究員)
 1977年広島県生まれ。立命館大学大学院修士課程修了。専門は、再生可能エネルギー政策。現場での実践と研究をとおして地域を主体にした再生可能エネルギー導入・普及のためのコンサルティングや支援に取り組む。この他、京都市全小学校での脱炭素教育のコーディネーター等を務める。著書に、『エネルギー・ガバナンス』(学芸出版、2018年)、「エネルギー自立と持続可能な地域づくり-環境先進国オーストリアに学ぶ」(昭和堂、2021年)などがある。

当日の資料はこちら(pdf)
動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=qZodO-KReKY

(2)学校授業と家庭の実践を組み合わせたプログラムの広域的な実施
[講師]服部 乃利子 さん(特定非営利活動法人アースライフネットワーク専務理事)
 1995年から10年間静岡市消費者協会事務局長として消費者運動に関わる。同年から環境省認定環境カウンセラー。地球温暖化の現状や省エネ講座、グリーンコンシューマーのワークショップなど、学校への派遣授業や、公民館講座、研修などを行っている。現在、静岡県地球温暖化防止活動推進センター次長を務めるとともに、コミュニティパワーによる再生可能エネルギーの普及推進をメイン事業とする「しずおか未来エネルギー(株)」を設立し代表取締役社長を務める。

当日の資料はこちら(pdf)
動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=DPC-SPJomKE

参加者からの質問

Q 各学校に必ず「環境学習プランナー」が配置されていると思いますがこの方々との連動をどのようにされているのかお聞きしたいです。また、どのような内容で学習支援を行っているのでしょうか。また、財政的な支援はどのような関係になっていますか。
A. 豊田氏:「環境学習プランナー」について、仕組みは地域によって違うと思いますが、京都では指導主事を中心にしつつ、環境教育スタンダード(教科書のどこに環境教育の項目が出てくるのかを整理したスケジュール)を作成しているので、これをもとに各学校で授業を組み立てるといったことを行っています。したがって、学校ごとに特に人員が配置されているわけではありません。
服部氏:静岡もこうしたプランナー制度はありませんが、学校と地域をコーディネートする学校コーディネーターから交流事業をやってほしいなどの依頼があります。ただし、事業予算は県と希望の各市町、当法人で賄っているためいきなり事業を実施したいという急な希望があっても実現が難しい場合もありますが、企業の寄付も得ながら対応運用しています。市町によって実施方法に関する希望が違うので、企業からの予算はいざという時に備えておくようにしています。

 

Q これまでの子どもエコライフチャレンジは「家族ぐるみの行動変容」に重きが置かれていたと思います。今後は、「脱炭素社会創造の担い手育成」に重きを置く必要があるように感じていますが、どうお考えでしょうか。また、もしこの観点で、何らかの工夫・変更をされるご予定があれば、差し支えない範囲で教えていただければ幸いです。
A. 豊田氏:エコライフチャレンジは家庭でどのようにCO2を減らすかというものでしたが、今後はゼロカーボンを踏まえると自分たちだけが減らすのではなく、社会全体でどう減らすかを考えていく必要があります。子供から大人になることで、個人にできることは増えていきます。環境に限らず進学や選挙などいろんな選択の場面で自分の選択を意識して行動してほしいということと、自分たちが社会を変えるという可能性についても考えてほしいということを伝えられるプログラムに見直しているところです。温暖化について理解を深めるだけでなく、社会がどうあるべきかを考えることで人の行動を変えていくことができればと思います。
服部氏:学校からのニーズは、自分たちにできることを知りたいということが中心なので、それにもこたえながら、話の中で少しずつ2050年の脱炭素社会について触れています。学習者のほとんどは小学4、5年生のため、2030年・2050年に何歳になっているか、その時の自分の未来はどうなっているか、から自分たちに何ができるかという気づきにつなげています。

 

Q 現在の危機的な状況に関する認識が子供たちとも共有される必要があるのではないかと思っています。自分たちが社会を変える必要があるという子供たちの意識を醸成するということについて、それぞれの年齢に応じた段階的な気候変動問題に関する学びについてはどのようにお考えでしょうか?
A. 豊田氏:小学4年の夏休み前の学習者は実質の知識量は小学3年生と同様くらいになっている。難しくてよくわからない、で終わらせず動画を用いるなどして、温暖化は自分たちの問題ということを気づかせることを4年生の到達目標としています。5年生は地域とのつながりや市の政策について、6年生は世界とのつながり、日本の政策や立場について、というようにそれぞれのレベルで身近なこと、地域のこと、世界のことと学年ごとの発達段階に応じた学びを得られるよう工夫しています。
服部氏:私たちのプログラムにメーターチェックの項目があります。小学4年生は小数点を習っているかどうかギリギリなので、メーターの数字に関する内容が少し早いという状況ですが、まず自分がどのくらいエネルギーを使っているかを意識してもらっています。ゴミ問題から始まる二酸化炭素の排出やその他の環境問題について学ぶのは学校ニーズとのマッチングがうまくいっています。小学5年生には大人になった後の社会を創造できる学びを提供していきたいですし、その一方でもっと下の学年にもアプローチしなければならないと感じています。

 

Q 家庭の参加についてですが、ご苦労等はないのでしょうか?同じような取り組みをされている方から、家庭からそのようなことはしてくれるな、という苦情があったということを聞いたことがあるので、ちょっと気になりました。
A. 豊田氏:市民の方からの直接の苦情はないが、多様化する家庭環境にも配慮するよう教育委員会からも求められています。「家族と取り組んで」が負担になっている場合もあるので、1人でもできることをやってもらって、それ以上はできる人のみということにしている。肉親、縁者でなくても一緒に住んでいる方や友達ともできるように働きかけを行うなどの配慮をしています。
服部氏:外国の方に向けて配慮してほしいという依頼があるので、資料をポルトガル語で作成したりしています。その他、メーターチェックやごみ軽量については家族が忙しい場合もあるので確認できなければそれでもかまわないという呼びかけをしています。今のところ「困る」というような苦情はありません。

 

Q 学校の先生の主体性をどのように高めて現場に映していくかと言う視点も大切に思うのですがいかがでしょうか。岡山でも何年も環境出前講座を行っていますが、温暖化の授業は減り、SDGsなど変革や探究的なニーズが増えています。私たちは、基礎的な普及啓発を学校現場に戻して、変革や社会づくりの主体者を育てていくスタンスに変えていく必要も感じていますがいかがでしょうか。
A. 豊田氏:意欲的な先生はSDGsや探究的な授業を作ろうとしているのでニーズが高まっていることを感じています。エコライフチャレンジはあくまでベーシックなもので、プラスアルファの授業をしたい場合は先生方のサポートも行っています。私立の学校はそうしたニーズが高まっている。英語の教科書に社会的な内容が含まれている場合があるので(太陽光発電が途上国でどう利用されているのかなどについて)キャリア、生き方、人権に関することが気候やエネルギーの問題につながっていることを伝えていくことが、先生方に対してできることだと考えています。他には、中学校高校にどう学びをつなげていくかが課題なので、似たような課題を抱えている方々と経験やノウハウを交換しながら壁を越えていきたい。
服部氏:先生方の認識は千差万別で、温暖化について学んでいないという先生と何かしらの環境教育を受けていてしっかり取り組もうという意識のある先生がいて、同じ学年でもバラツキがあります。そのため先生のためのマニュアルを用意しこの授業が次の学びに繋がるように打ち合わせ会議も丁寧に行っています。教育に携わる先生は前向きな方が多いという印象を受けていますが、主体的にこれから人材教育にまで発展できるかが課題だと感じています。

 

Q 服部さんへ>企業とのかかわりについてですが、どのようなきっかけで企業を巻き込むのか、教えてください。
A. 服部氏:行政からの予算が削減される中で、どうにかして予算を確保したいと思ったのが企業とのつながりのきっかけでした。企業からSDGsやCSR報告書を子ども向けに作りたい、など相談をいただく機会に、しっかり巻き込むようにしています。実施校には必ず来校してもらい、まとめの授業では子ども達への認定書授与の役割を担ってもらうなど、協賛金を提供するだけでなく事業に参加できる仕掛けづくりをしています。今後は、実施する市町の地域のSDGsや環境の取り組みをプログラムの中で紹介するなど、より地域と連携した形で継続していきたいと思っています。