気候変動教育

【開催報告】気候変動教育連続勉強会 第3回「気候変動の地元学」による共学と共創

北海道地方ESD活動支援センター(EPO 北海道)では、脱炭素社会への転換を見据えた人材育成のために「気候変動教育」について国内外の動向や事例を学び、その体系確立や普及戦略の構築に向けた連続勉強会を開催します。この度、気候変動教育連続勉強会 第3回を開催しました。

※この勉強会は、環境省・文部科学省が中心となって進めている「ESD(持続可能な開発のための教育)推進ネットワーク」による「ESD for 2030 学び合いプロジェクト」 https://esdcenter.jp/2021/07/starting_manabiai_project/  の一環として実施します。

開催概要

[日  時] 2021年9月7日(火)16:00~17:30
[開催形態] オンライン会議システム「zoom」を使用
[参加対象] 気候変動教育の実践者・関係者,関心をお持ちの方
[参加者数] 69人
[主催] 北海道地方ESD活動支援センター(EPO 北海道)

内容

山陽学園大学教授の白井先生を講師にお迎えし、気候変動というグローバルなテーマを地域課題化、地域住民等の主体的な学習と行動を促す方法として、「気候変動の地元学」を提唱し、全国各地で実践してきた結果と現在の活動についてお話いただきました。

[講師]白井 信雄 さん(山陽学園大学地域マネジメント学部 教授)

1961年生まれ。静岡県浜松市三ヶ日町育ち。1986年大阪大学大学院前期課程環境工学専攻修了。同大学にて博士(工学)。民間シンクタンク勤務、法政大学教授 (サステイナビリティ研究所)を経て、2018年より現職。岡山に移住。
シンクタンク時代の環境省、国土交通省、林野庁等の委託調査の経験を活かし、環境分野での実践を具体的に支援する研究・教育活動を展開中。
専門分野は、環境政策、持続可能な地域づくり、気候変動・エネルギー政策、地域環境ビジネス、環境イノベーション普及 等。
主な著書に、『持続可能な社会のための環境論・環境政策論』(単著)、『再生可能エネルギーによる地域づくり~自立・共生社会への転換の道行き』(単著)、『環境コミュニティ大作戦 資源とエネルギーを地域でまかなう』(単著)、『図解 スマートシティ・環境未来都市 早わかり』(単著)、『気候変動に適応する社会』(共著)、『サステイナブル地域論―地域産業・社会のイノベーションをめざして』(共著)、他多数。

講演資料はこちら
https://epohok.jp/wp-content/uploads/2021/09/第3回気候変動教育連続勉強会資料.pdf

動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=2U5f0ofHyks

参加者からの質問

Q. 気候変動はわたしたちが対策をとるべき喫緊の課題だとは思うのですが、地域の中でのそれに対する意識はあまり高くありません。年々台風の時期が遅くなったり、威力が強くなったり、漁業でもとれる魚の時期が変化していたり、いろんな影響は受けているようには思うのですが、それによって地域全体で行動や意識がかわったり、ということは現在までありません。まず地域の人と一緒に勉強会やワークショップみたいな機会を持ちたいのですが、どのように呼びかければ効果的なのか、「なんだか難しい話をしてるな。わたしには関係ないことだ」とならないような工夫があれば教えてほしいです。

A. 影響の大きい地域は、気候変動による影響が入り口になると思いますが、そうでない地域も影響が見えにくいだけで、無いわけではありません。例えば、水産業を担う漁師さんは獲れる魚の変化を感じているが、消費者は店で売っている魚を見てもそのことはわからない。流通を扱う人ではなく、漁業者のような自然に関わる人は何かしらの変化は感じているはずなので、そうした人をターゲットに聞き込みを行うこともよいでしょう。地域の人を巻き込み当事者性をもたせるために、知らないでいることが多いことを自覚してもらうこと、知っている人に話を聞きに行くことをおすすめします。

 

Q. 世界的にも気候変動、特に高温ストレスや冬眠できないことが野生動物の行動に影響を与えるというニュースを聞きます。近年の野生動物の被害に気候変動が影響を及ぼしているかもしれないということでしょうか。北海道ではクマの被害が最近目立ちます。地域の住民にとっては注意喚起として重要かと思います。また、もし関連する文献をご存じであれば教えていただけますか。

A. 複合要因なので気候変動の影響だけとは言えませんが、鳥獣被害を気候変動の影響と位置づけて、適応策を検討する動きは進んでいます。例えば、中国四国地方では、「気候変動適応における広域アクション策定事業」の一環として、「山地・森林等の植生及びニホンジカ等の生態系における気候変動影響への適応」を検討しています。検索して、調べてみてください。

 

Q. 地域での調べ学習・地元学を出発点に、大変幅広く総合的に取り組んでおられることがよくわかり、とても勉強になりました。大学にも「カーボンニュートラル人材育成」が求められる大きな動きがあり、今後、全国的に、気候変動教育のカリキュラム・教材作成が進んでいくことになると思われます。地域調査を出発点にすることは、大学教育でも重要だと思いますが、多くの学生に地域調査に取り組んでもらうためには、わかりやすいテキストやワークシートが必要だろうかと考えています。また、学習を個人の省エネ行動にとどまらず、社会の変革に向けた力と行動につなげていくことが大切である一方で、大学の授業としては簡単にはいかない部分だろうと思っています。地域のキーパーソンを見出して一緒に実践に取り組むということも必要ですね。

A. 日本環境教育学会で気候変動教育部会を作りたいと考えています。発達段階の異なる対象毎のいろんな取り組みが行われることが大事だと思うので、随時共有していきたい。また、教材作りも目下必要だと思います。従来の環境教育であれば個人単位のもので良かったが、これからは社会のあり方を変える大きなアクションが求められています。考え方の枠組みを変えて、今後教材作りなど行っていく必要があります。

 

Q. 普通の市民や農家の方を対象とした調査やワークショップでは、必ずしも専門家ではない参加者が、影響事例を網羅したり言語化したりすることは簡単ではないと思いますが、どのように引き出してきているのでしょうか?プログラムの工夫があれば教えてください。

A. これまで一定の関心がある人たちとやってきているので、あまり関心のない人を対象としたものについてはあまりわかりません。適応に対するアクションについて話したい人、フロントランナーを大事にして動ける人から動いていけるようにしていけば、フォロワーにも気づきがあるものと思います。さらにいえば、(地元学とは離れますが)人がどう成長していくかが大事だと思います。一人ひとりが批判的思考や内省をする機会を持つことはできるはずで、そこからそれぞれの成長がなされれば、新たな動きができるはずです。このためには一人ひとりに寄り添う丁寧な対話のデザインが必要だと考えています。