温泉の天然ガスで温暖化防止と地域活性化
豊富町は今年、豊富温泉で温泉水とともに噴出している天然ガスを利用したガス・コージェネレーションシステム(CGS)を導入。2011年3月1日から運転を開始しました。
CGSはガスを燃料に発電すると同時に、排熱を回収して給湯などに利用するシステムです。適切に組み合わせることで、高いエネルギー効率の実現が可能だとされています。町ではCGSにより生まれたエネルギーを、温泉水を汲み上げる電力と宿泊施設に供給する温泉水の加温に用いることで、これまで大気拡散していたメタンガスによる温室効果を低減 するとともに省エネルギーを推進。具体的な効果として、年間約800トンの二酸化炭素排出量削減、約250万円のコスト削減を見込んでいます。
豊富温泉は大正15年(1926年)の 石油試掘をきっかけに開湯した日本最北の温泉郷です。独特の泉質はアトピーや乾癬(かんせん)などの皮膚疾患に有効だとされ、毎年全国から多くの湯治客が訪れます。しかし最盛期に10軒あった旅館は現在3軒が残るのみ。町の存続にとっても温泉街の活性化は大きな課題でした。そこで浮上したのが天然ガスの活用アイデアです。
これまで町は鉱山の運営主体ではなかっ たため積極的に取り組むことができませんでしたが、平成23年3月末に鉱業権を持つ民間会社が不採算を理由に撤退することが決定。町に鉱山が譲渡されるこ とになり、道の「エネルギー一村一炭素おとし事業」の認定を受けたことで、今回のCGS導入事業が実現しました。
事業の推進にあたっては、法律への対応 が大きな壁に。扱う資源の形態や敷地の関係から、「鉱山保安法」「電気事業法」などの法律への対応が求められました。町では数年をかけて保安管理体制を整えたり、平成18年度より新エネルギービジョンを策定し、源泉付近にCGSを設置することを検討したりするなど準備を計画的に進めてきました。
そのように鉱山の譲渡に向けて整備を進 める過程では、新たな事実も。公称で1日3000立米とされていた天然ガスの産出量は、実は倍以上の7000立米あることが分かりました。これまでも天然 ガスは温泉街で利用されていましたが、1日で2500立米程度の使用量。つまり5000立米近い天然ガスが利用されることなく大気に放出され、温暖化に影響を与えていることになります。メタンガスは二酸化炭素に比べ温室効果が21倍と高いガスです。排出抑制という意味でも、事業推進の必要性はますます強く なりました。
町では将来的に、燃料電池や天然ガス自動車などでの活用も検討していますが、この事業のねらいは温室効果ガスの排出抑制、省エネ促進だけにとどまるものでは ありません。豊富温泉を環境にやさしい温泉郷としてアピールするなど観光分野との連携や、企業誘致による新産業の創出、雇用の拡大を図る取り組みも視野に入れています。
そのため「エネルギー一村一炭素おとし事業」では、豊富町観光協会や鉱山を運営する合同資源産業(株)、サロベツ湿原センターの管理運営などを担うNPO法人サロベツ・エコ・ネットワークとコンソーシアムを組んで事業を展開します。
(取材協力:豊富町商工観光課鉱山保安係)