対話の場づくりと協働

地域を動かすユニークな教育~北海道標茶高校のESD

乳搾り
釧路湿原上流部の酪農の町、標茶町に標茶高校があります。「食、農、環境」を教育の3本柱と して掲げる標茶高校の全校生徒数は 343人、教師数は42人。校地面積は255haと国内有数の広さです。この広大な土地を活用した学習内容は、農業高校としての歴史を踏まえつつ、近年は、総合学科として地域全体を巻き込んでその裾野を大きく広げています。地域のつながりを大事にし、地域の課題を、その地域全体で解決していくように方向づけしていくための教育が「ESD」のひとつだとすれば、標茶高校の取り組みはまさにESDでしょう。

(この記事は、2007年2月5日、田中延和教頭、岸本修教諭、石井亮教諭の3名にお話を伺った内容を元に構成しています。)
 
 「食」 現場で学ぶ
 食については、釧路商業高校と釧路工業高校、そして標茶高校の3校で、地域に貢献しなら「モノづくり」を体現しようというプロジェクトが始まっています。現在、商、工、農業系の道立高校間には圏域毎に生産から販売までを実験的に研究するチームがあり、これら3校は釧路圏域の代表チームです。
 このチームでは、農業系総合学科の標茶高校が地域の製造関係の業者と協力して乳加工の新製品を開発、釧路工業高校が販売用の ショーケースを製作、そして、釧路商業高校が販売やモニタリングの中心となり、3校の生徒が協力して釧路市のお祭りなどで販売を行っています。これまで2回の販売実習がありましたが、「俺売ってきます!」と工業高校の男子生徒までもが販売の楽しさや醍醐味に触れています。高校生が専門分野を超えて、食品開発や販売活動を行うことは、これまでにないものでした。
 また、標茶高校では、釧路市内や標茶町内の小学生とその保護者を招いて、一緒にパンやアイスクリームを作って食べる試みも行っています。「まさにあの牛が出した乳からできたモノを食べる」ということを通じて、命や食の大切さを参加者にダイレクトに伝えるとともに、授業でそれらにかかわる生徒も同じことを学びとります。

● 「農」 先生は高校生
標茶高校では地域の人に農場を開放しています。「地域の人が、鍬とかスコップなんかを持ってよく出入りしていますよ」と田中教頭が語る通り、地域の人と標茶高校がフィールドを共有している格好です。豊富な農地と昔からそこで醸成されてきた素晴らしい土を活かして、地域に自分たちで作って食べる喜びを伝え たいと始まりました。
 この中では、同校生徒が先生となって地元の小学生に農業を教えています。小学生と高校生が手をつないで畑に向かっていきます。そして安全に配慮しつつジャガイモの作り方を教え、収穫までを一緒に行っていきます。参加している小学生も教える高校生も、地域の方々とのコミュニケーションの中で教科書の文字では表せない沢山のことをお互いに学び合います。地域全体が標茶高校という学びの場を使うことによって、まさに農業を中心とした地域の教育が同校で創造されています。
  「学校に煮炊きできる場所があればさらに良いのですが・・・」と岸本農場長。生産から食べるところまでの一連の流れの中での学びは、これからの日本の農業教育や食育の本来のあり方を問うものとなるかもしれません。
 
● 「環境」 Think Globally Act Locally
 ラムサール条約登録湿地のひとつである釧路湿原では、現在自然再生事業が推進されています。過去の開発による湿原面積の減少や湿原の乾燥化等、多様な生物の生息地としての釧路湿原は数々の問題を提起しています。自然再生事業は、このような課題に対して「人と自然の共生」を目指していくものであり、多くの議論や事業が行われています。標茶高校もまた、2001年に「釧路湿原再生プロジェクト」を立ち上げ、研究活動を始めました。
 
   同校のテーマは、「水質浄化」。町の基幹産業である酪農業や生活排水が湿原に与える影響を重要な課題としてとらえたテーマです。その取 り組みが地域の産業の中で組み込まれないと本当の課題解決にはならないと、地元の企業や標茶町、そして大学等の研究機関と連携して、低コストでシンプルな 浄化システムを検討しています。これまで、湿原の植物である「ヨシ」、「ガマ」、「スゲ」、「オランダガラシ」等を使った水質浄化の実験を行い、効果を実証しようとしています。生徒は自らの仮説を実証するために、研究機関に出向いたり、大学の先生の出前講義を受けたりする一方で、地元の小学生に「小学生の ための環境学習の授業」を行ったり、様々な会合で研究発表しています。もちろん地域の方々への説明も生徒自ら行っています。
  「教えられる」という一方通行の学習でなく、自分たちが行ったことや考えたことを伝えるという両輪をしっかりまわし続けています。地域の課題解決の実践者 でありコーディネーターでもある生徒が、世界的に貴重な釧路湿原という舞台で「人と自然との共生」を見つめています。同校の実践に見られるような地域全体 で郷土を考えるキッカケを与え続けている行動は未来をつくる行動と言えるのではないでしょうか。

 

地域を動かすユニークな教育~北海道標茶高校のESD

地域を動かすユニークな教育~北海道標茶高校のESD