協働取組

「2012年北海道環境教育研究会シンポジウム」を開催

鈴木先生3月4日(日)「かでる2.7」(札幌市)において、今年10月から「協働取組」が明文化された改正環境教育推進法が施行されるのを機に、北海道からこの協働取組をいかに進めるかを考えていくことを主旨として、「2012年北海道環境教育研究会シンポジウム」(主催:北海道環境教育研究会、北海道立市民活動促進センター、環境省北海道環境パートナーシップオフィス)を行いました。
開会にあたって「学校をはじめNPOなど様々な活動があるが、今まで1つの力になっていなかった。協働取組が法的に位置づけられたら、どんな形でできるのかを考えたい」と北大の鈴木先生が述べられました。
 

田中(那)先生最初の問題提起は、教育大函館校の田中(邦)先生から「持続可能な社会のための協働とは」と題し、渡島大沼水質改善プロジェクトの話題を中心に、活動に至った経緯や取組内容が述べられました。この中で、「人類は環境問題がやがてなくなると思っているが、現代人が未来人に害を及ぼすように加害者と被害者がいる」ことを踏まえ、大沼地域の持続可能な発展を目的に各種の取組を実践していることが紹介されました。

同プロジェクトでは、「泳げる大沼を取り戻そう!」をキャッチフレーズに、富栄養化が進み汚れてしまった大沼の水質改善に向けて、大沼へのリンの流入を徹底的に調査し流出防止対策を講じるとともに、若い世代に考えてもらうことを目的とした「高校生サミット」を開催するとともに「ひとつの種を起点に、協働取組の網の目を広げていくことがポイント」と述べられました。

平田氏GEOCの平田氏からは、「改正環境教育等推進法について」と題し、企業、行政、NPO、単体セクターでは解決できない課題について、「それぞれにルールがあって阻害要因になっていたが、行政が協働取組に非常に踏み込むことになる改正推進法施行により、国、自治体等の連携が深まることが期待される」。

また、同法は「市民が法律を活用できる」とも言い、例えば「ラムサール湿地研究会を作りたい」と言えば、それを作る根拠になるとともに、第8条の行動計画では「できない場合は理由を示さないといけないようになっている」とその改正ポイントを簡潔に説明されました。ただし、同法が改正されても「使う方が頑張らないと何も変わらない」と、むしろ改正されてからの活用の重要性が強調されました。

続いて、3人の方から問題提起がなされました。最初は宮島沼水鳥・湿地センター職員の牛山氏から「宮島沼をフィールドにした協働における課題」と題して、宮島沼の課題をいろいろな人の力を借りて解決してきたことがお話しされました。

「ワイズユースは協働なしではできない。多くの人の参加と理解が必要。例えば、ふゆみずたんぼを実施し、化学肥料に頼らず水を浄化して沼に戻せるようにすることで、農家のメリットも作る」。

小学生にマガンを触ってもらったり、あぜみちのフットパスや、こどもからおじいちゃん・おばあちゃんまで利用する農家レストランなど、協働による多くの取組がなされています。その枠組みは、宮島沼水鳥・湿地センター(環境省設置・美唄市運営)が核となり、非営利団体、一般市民、専門家などと連携を図っていることです。

「ラムサール条約にとっても協働はとても重要。湿地は、人々とのかかわりの中で守り育まれていく。地域住民が主体になれる枠組みが必要」。それには、湿地と人をつなぐ施設・団体・計画が重要とのことでした。

 田中(正)先生続いて、宗谷中学校教諭の田中(正)氏から「宗谷中学校の『ふるさとに学ぶ産業教育』と地域との協働」と題し、同校の産業教育を中心とした話がなされました。同校は宗谷岬から約5キロに位置する日本最北の中学校で、漁業関係者を中心とする安定した家庭の多い地域にあります。5年前に50名近かった生徒数も今では28名。かつて沿岸3校と呼ばれた中学校に統合反対の声が上がる中、3校の力を結集し産業教育を行うために、先を見据えて前向きに統合された学校です。
ねらいは、「企業の技能を担う質の高い担い手の育成」。多くの生徒の進路は漁業に従事するそうで、後継者を育成する力になります。総合学習の導入の際には、この産業教育を総合学習に位置づけました。

一方、宗谷漁業協同組合とも連携を図り、ホタテの燻製を作って修学旅行で販売するなどのユニークな取組も行われていますが、地域の特産物を使うため、時には厳しい意見もいただくとか。

また、エビカゴ漁のカゴ作りでは、最近カゴを作ることがないのでお父さん方も学ぶ機会になっており、地域との関係を深めるのに一役買っているそうです。

「文化祭でもホタテの燻製を販売するなど環境教育を地域に還元するとともに、父親の仕事を知ることができ自信がつく」といった成果がある一方で、総合学習の時間や生徒の減少、地域の人材を発掘することや教員の異動による引き継ぎが課題になっているそうです。「先生によって興味の有無があるので、意識の問題がある」。

小川氏最後は、エコネットワークの小川氏から「ヒグマとの共生に向けて」と題し、時々笑いを取りながら、学生が札幌市中央区と南区でヒグマが出た際の調査研究を使用してお話しされました。

「フットパスルートで、『ヒグマも出るところは危険ではないか』と言われることがあるが、歩く側がそういう場所と意識するべきで、時々クマが出るから無言で歩くことを禁ずるとかいろいろ方法はある」。本州の山を歩いていると「棒をたたけ」とあったり、イギリスにはクマはいないが、木工作家が作った木琴のようなものがあって、音を出しながら歩くことができた事例を踏まえ、クマから守る仕掛けとして紹介されました。

「殺さないと人間の安全が確保できないという考えは変だ。これは人間の側の問題。クマ出没は、地元の人よりマスコミが騒ぐ」。アンケートでは、「クマがいなくてもいい」という回答は1%。山に下りてきた理由は、エサがないから62%。「下りてこないようにする」、「駆除してよい」はわずか4%で、住民は冷静であると分析されています。「25年くらい前は、『クマを保護すべき』か『駆除するべき』かは半々だった」そうです。

問題提起に沿った分科会を挟み、最後にパネルディスカッションが行われ、各分科会のファシリテーターからそれぞれの要旨が発表されました。

パネルディスカッション分科会Aでは「協働は、関わっている担当者が変わると続かないケースが多く、継続性のある仕組みを考えなければならない。緊張感を持ち、相互理解をする必要がある。しがらみのない外部コーディネーターや、自然科学や人文・社会科学などの専門家の力を借りることも重要」。

分科会Bでは「環境教育は学校以外の協力を得ながら進めているが、教員のリカレント教育も必要。一方、企業では “つながりの場”がないという意見や地域が潤うような協働も必要」。

分科会Cでは、「学校教育と結びつけることは難しいが、まちづくりセンターの協力を得たり児童会館で行うことで、つながりが生まれるといった意見のほか、マスコミの教育が必要」といった意見が出されたということが報告されました。

一方、問題提起者からは「自然を活用した教育がうまくいっていない。引き継ぎの点など、学校現場目線がはっきりした」(牛山氏)。「学校側もうまく使われていない。都会だとNPOなどがあってつながれるが、田舎はそうはいかない」(田中(正))。「伝えたいことを出し渋った方がうまく伝わるのではないか」(小川氏)。

これに対し、田中(邦)先生から「地域に入っていくのはどうしたらいいかの経験を話し合ったが、出し渋った方がいいというには非常に面白い。協働は“人”というが、ひとりくらい変わってもうまくいくのではないか」。

続いて、
(1)「協働の場づくり(どういう条件が必要か)」
(2)「協働のあり方(緊張感など。いくつかのプロセス)、
             協働の継続性(制度的な問題、担当の問題)」
(3)「協働の発展性(自由な意見)」
について、フロアからの意見を交えて議論が進められました。
 
(1)「協働の場づくり」
フロアから「私は、環境人材の養成を行っているが、働く場、活躍する場、働く場があっても任期付で問題を抱えている。人材バンク的なこと、HP公開、マッチングをどこかでやってもらえればと思っています」。

「小さな町において、幼小中高連携で環境教育を行ったことがあるが、先生方が地域のことをわかっていない。人材バンクに登録するような人材は、保育の時から教えるべきで、他大学との連携など、横のつながりを持つ必要がある」といった意見があり、田中(正)先生は「学校教員ひとり一人が地域に入り、地域を巻き込んだ行事をする学習活動があるが、環境、地域に興味がない人にとってはやらされている感が残り、先生の負担感が増え、形だけになる。教員、委員会などとチームを組むことも重要と思います」と述べられました。

(2)「協働のあり方や継続性」
フロアから「自分たちの地域をよく理解することが大事だが、先生がメインでやることは限界があるので、地域の人をメインにするべきではないか」、「続けていくうちに新しい価値観が生まれる」、「協働で重要なのは、情報の共有が重要。コーディネーションできる人をどう育てるか」と言った意見が出されました。

(3)「協働の発展性」
「分科会Aで科学的データの公開が言われていたが、加害者側や情報弱者など利害が発生する。意見を言った人が行政から『データを出せ』と言われても出せない」といったフロアからの意見に対し、田中(邦)先生は「公金で行ったデータは、きちんと市民に公開すべき。ここは一歩も譲るべきではない」と述べられました。

また、平田氏は「協働取組の見える化をEPOの請負団体でやっているが、日本の文化とか協働取組を勉強している」と述べられました。

「勉強になったのは、フィールドが違う話から学びを深めなければいけない。意見交換の場も協働。協働取組を行う上での能力を鍛えなければならないと思う」と田中(邦)先生がまとめられ、鈴木先生から「このシンポジウムも継続性のあるものにしたい」と締めくくられ終了しました。