カムイ・エンジニアリング株式会社
選定理由:
道内の多くの地域で問題となっている廃プラスチックやカラマツの間伐材等、地域で生まれる廃棄物を資源として再生、循環と、地域産業振興の両立を目指し、産官学協働により実現したベンチャー。環境ビジネスで雇用を創出して直接地域経済に貢献するとともに、その扱う製品や企業姿勢は、環境メッセージにあふれている。製品は町内のみならず、道外にも出荷され、ビジネスモデルとしても注目されている。
●地域発、環境ベンチャー
標茶町は、南部に国立公園・ラムサール条約登録湿地として有名な釧路湿原を擁し、町面積の半分以上を森林が占める国内有数の自然環境を誇る。牧草地が町面積の2割以上を占め、人口の約4倍の乳牛が16万トンもの生乳を生産する酪農王国でもある。一方で、大量の廃プラスチックや家畜糞尿の処理、カラマツ造林の間伐材など、域内の廃棄物の処理の問題を抱えている。
公共事業が削減されていく中で、現社長の大越武彦さんをはじめとするまちづくりの担い手と役場職員は、2000年冬から釧路公立大学地域経済研究センター長の小磯修二教授の協力を得て勉強会を重ね、町内の廃棄物を資源に町内に新産業を興す「地域ゼロエミッション」という企業理念に到達した。その後、経済産業局の支援や道外企業との技術提携を経て、廃棄物を原料とする木質複合材の開発と製造、植物による水質浄化技術の開発、コンブなどの藻場の再生技術の開発等の事業化に漕ぎつけ、2002年4月にカムイ・エンジニアリング株式会社を設立した。工場建設に当たっては、規制緩和により可能となった地域限定の私募債を、町内を中心とする40名ほどが購入し、約1億円の資金調達に成功した。小磯教授自身も経営陣に参画し、文字どおり地域の産官学協働によりスタートした。
●地域への貢献、環境へのこだわり
カムイ・エンジニアリングは、人口9000人の町に新たに20人ほどの雇用をもたらした。この年閉山した太平洋炭砿からも職員を受け入れており、経済情勢の厳しい釧路地区では貴重な受け皿となっている。現在、3交代24時間操業により、主力商品である木質複合材「カムイウッド」などを生産している。カムイウッドは、町内の間伐材などの廃材と廃プラスチックを加工して作られる。強度、耐水性、加工性に優れ、原料も廃棄物ながら、使用後も100%リサイクルでき、さらに接着剤や水を使わず燃やす工程がないため、製造に伴う環境負荷も少ない。植物による水質浄化は、家畜糞尿などの水系への環境負荷を、エネルギーや化学物質に頼らず、地域の植物に段階的に栄養として吸収することで除去するもので、浄化能力を調べて最適なシステムを開発するための実験が重ねられている。この実験は、釧路湿原自然再生事業の一環であるとともに、地元の道立標茶高校との協働により生徒が参加して行われるなど、実践的な環境教育としても重要な役割を果たしている。藻場の再生は、廃プラスチックによる網状構造培地を開発し、水系下流の厚岸町で実験を重ねている。このように、同社の事業は、この地域の森、川、海という水系全体の保全を意識し、かつ、地域の産業や教育に直接貢献する姿勢が一貫しており、説得力にあふれている。
●カムイ・エンジニアリングの功績
カムイ・エンジニアリングの製品は、市場でも高く評価されている。基準の厳しい全日空の機内販売への採用、「北海道認定リサイクル製品」への認定(2005年)、「リデュース・リユース・リサイクル推進協議会会長賞」(2005年)、「北海道ゼロエミッション大賞(優秀賞)」」(2006年)の受賞など、実績を着実に重ねてきている。カムイウッドは、屋外のベンチや物置、柵など多用途に使うことができ、町内や近隣の施設のみならず、遠く新潟や鹿児島など道外でも建造物やエクステリアに採用されている。2005年の愛・地球博では、電力館のフェンスに十勝管内のダムの流木を原材料とするカムイウッドが使われた。品質に加えて環境面での付加価値が消費者に評価されるようになってきている。
同社の姿勢は、「地域の課題は、工場や公共事業の誘致ではなく自分たちの力で」、「地域ゼロエミッション」、「環境保全で地域再生」、「地方発ベンチャー」等々、進取の気性にあふれている。地域が自力で産業と雇用を創出し、それが地域と環境に好循環をもたらす可能性を実証したこと自体が、カムイ・エンジニアリングの特筆すべき功績といえる。
企業データ
所在地 標茶町字栄214番地3
連絡先 tel 0154-85-5820
CSR・環境報告書の発行 無
CSR担当部局 無
( パートナーシップ事例 / CSR事例 )
カムイ・エンジニアリング株式会社