NPO法人アプカス すべての人が共に歩むことができる社会を
スリランカの被災者や難民、小規模生産者、片親家庭や子ども、障がい者など“周縁化された人々”を取り巻く諸問題の解決のために活動を展開。すべての人が、共に歩むことができる社会の実現を目指し、日本人2人とスリランカ人スタッフ7人が力を合わせ、気温30度の常夏スリランカで汗を流しています。
(写真:ボルゴダ湖のおが屑プロジェクトで実施している学生への環境教育の様子)
キーワードは「対話・自立・持続」
アプカスの活動のキーワードは“対話・自立・持続”。どのプロジェクトにおいても、地域の人々の“向上心”や“既存の資源”をいかに引き出すかという点が一番重要です。例えば、学校建設のプロジェクトを立案する際、まずは行政や校長先生、教員、保護者が対話を重ねる場を創出し、地域の問題を共有、何が真のニーズかを共に考えます。学校建設中も、地域の人々にお金の管理や建設作業の一部を手伝ってもらうなど、可能な限り地域の人々に主体的に関わってもらえるように事業を進めます。
(写真:住民を巻き込んだ復興支援の様子)
また、地域の教育問題は学校を建てただけでは解決できません。地域の人々が対話を重ね、協力しながら改善を図っていく“継続的な努力”が必要になります。山あり谷ありですが、プロジェクトを通して人々のネットワークを強化できれば、新たな課題に向き合う時の枠組みが地域に育つことになります。アプカスはこのようなプロジェクトこそが、少ない入力で大きなインパクトを引き出す“エコ=効率的”なプロジェクトであると考えています。
支援を長期的な視野で考えると、地域の“自立”が重要です。アプカスは、あくまで外部者であり、その場に留まるわけではありません。プロジェクトを契機に、地域の様々な背景を持つ人々が問題点を共有しながら“つながり”を深め、一方で自分の能力に気づくことができれば、“愛着心”や“責任感”が生まれ、地域の自立に繋がっていくはずです。援助に慣れてしまっては、意味がありません。
環境保全と貧困削減の両立こそ、持続可能な社会への近道
アプカスが“地域=コミュニティ”を強調するのは、スリランカをはじめとする開発途上国の環境問題に“低ガバナンス”がベースにあるからです。例えば、選挙が近くなると政治家の一声でゴミ収集車がやってくるスラム街、予算不足で現場スタッフがいない森林保護局、就業規則で午後3時に帰宅する学校の先生、陳情に行っても部署のたらい回し…というように、行政が機能不全に陥っている問題が根深く存在しています。
地域の人々を主役にコミュニティを活性化し、行政も巻き込みながら問題を改善する方向に持っていくことが、現実的な答えでもあります。アプカスの多くの活動地域は、スリランカの貧困層の80%が住む僻地農村ですが、これらの地域には、低ガバナンスの副産物としてお互い助け合うシステムが残されています。そういった有形・無形の資源を大事に使うことこそ、地域開発における“省エネ=効率性”につながります。
(写真:ゴミ捨て場に集まる野性のゾウとウシ)
もう一つの大きな特徴が、環境問題と“貧困”が深く関わっていることです。例えば、自分たちの利益となる植林プロジェクトを企画しても、「時間はあるが交通費がない」「日当がでないなら行かない」といった、日本では考えられない理由で住民が参加しないことがあります。その背景には貧困があり、その部分に配慮が欠けたプロジェクトはうまくいきません。
また、森林の減少も焼畑農業や調理用の薪利用といった“日常生活”と不可分に関わっているため、森林を伐採しなくても生活できる負担感の少ない代替システムを提供しなければ、結局は元の生活に戻ってしまいます。環境保全という目的を達成するためには、道徳や法律だけではなく、住民がきちんと恩恵を享受し、地域の貧困の削減や経済的な発展に結び付けていかなければ、“持続的”な取り組みを引き出すことは難しいのです。
“北海道発” 適正な環境技術移転を フィールドを提供したい
アプカスは、災害復興支援、農業支援、教育支援、生計向上、ネットワーク構築などの活動を展開していますが、環境問題へのアプローチも活動の核になっています。
昨年度から、酪農学園大学と共同で、木材産業が盛んなモラトゥワ市ボルゴダ湖周辺に不法投棄されているおが屑から薪燃料を生産し、それを地域住民に安価で提供するプロジェクトに取り組んでいます。おが屑という廃棄物を減量し、バイオマス資源の有効利用にも貢献しながら、購入を通して生産コストを周辺住民に負担してもらうことで経済的にも持続可能な取り組みに発展させるというものです。
また、北中部州では、フッ素汚染水が慢性腎疾患の原因の一つになっていると言われており、スリランカ国内の技術を使用したろ過システムの教育機関への設置事業も行っています。今後は、研究機関と連動し慢性腎疾患の複合的な原因究明を進めながら、より広範でメンテナンス負荷が少ないろ過技術の普及に取り組むことができればと考えています。
(写真:ゴミとおが屑があふれるボルゴダ湖)
その他の環境問題に関する活動としては、干ばつや洪水など、近年気候の変化が顕著になっていることから、気候変動対策として、雨水貯蔵タンク、井戸、水道等のインフラ整備をはじめ、干ばつに備えた地域防災計画の策定なども行ってきました。エネルギー関連では、特に僻地農村で改良かまどの普及、バイオガスプラントの設置、分散電源の設置実験、非食用及び在来植物原料のバイオディーゼル生産実験等をパートーナーNGOと行い、資源の有効利用関連では、土地造成時の廃土を利用して作る“土レンガ”による住宅建設、農作物残渣を利用した紙作り、生ごみのコンポスト化を通した家庭菜園普及活動も積極的に行ってきました。
環境の専門家集団ではないアプカスが、これだけ広範な環境問題に対する活動が展開できるのは、現地スリランカに環境問題に対して高い意識を持ち、研究や活動をしている人々がいるからです。彼らは自分たちの土地を愛し、地球の未来を憂い、よりよい環境を残すために様々な障壁がある開発途上国で真剣に環境問題に向き合っています。私たちアプカスは、所属組織を超えてそのような人々と信頼関係を築き、試行錯誤を重ねながら環境保全活動や環境配慮型社会の構築に向けた取り組みを共にしてきました。アプカスが何か特定の専門知識を今から勉強するよりも、彼らが今必要としているものをサポートすることが、チームとしてより“効率的”であると考えています。
今後は、特に北海道の皆さんにチームに加わっていただき、スリランカの環境分野の人々との連携強化、適正な技術の移転を図っていきたいと考えています。
スリランカ、日本・・・互いに学び合える関係構築の潤滑油に
アプカスには、環境問題が存在する多くのフィールドがあり、現地のネットワークがあります。環境分野でも、スリランカの人々と皆さんを繋げて行くこと、一緒に試行錯誤していくことが、大きな力を生み出していくのではないかと思っています。
また、途上国では何かを始める時、敷居が低いというメリットがあります。研究者や技術者、学生や市民の皆さまにとっても、十全でない環境下での技術開発は、イノベーションを加速させるという効果もあるように思います。
さらに、直接現地に行かなくても、より少ない労力で強く繋がっていけるようなシステムをつくっていきたいと思います。そういう意味でも、インターネット技術をうまく使って、お互いの距離を縮めることができるのではないかと考えています。
意外かもしれませんが、実は開発途上国の方が、環境問題に関して日本より進んだ取り組みがあったりします。最終的には、お互いに学び合える関係構築の潤滑油になれればと思います。
(写真:学校建設と雨水貯水タンク、菜園づくり)