【開催報告】第1回ESD担い手ミーティング「ポスト2015開発アジェンダ勉強会~国際的な動きから、持続可能な北海道を考える~」
7月17日(木)、札幌エルプラザで、第1回ESD担い手ミーティング「ポスト2015開発アジェンダ勉強会~国際的な動きから、持続可能な北海道を考える~」を開催しました。当日の勉強会の様子を簡単ですがご報告します。
持続不可能な資源開発、あらゆる格差による貧困問題、マイノリティーやジェンダー差別…。世界だけでなく、日本で、または地域で、持続可能な社会実現のための課題は山積しています。
今年は「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」の最終年であり、来年には、貧困撲滅のための「ミレニアム開発目標(MDGs)」の達成年を迎えます。さらに、2012年の国連持続可能な開発会議(Rio+20)では、「持続可能な開発目標(SDGs)」の設置が合意されました。新たな目標づくりが国連を中心に進められており、特に、MDGsとSDGsを統合するという新しい視点に注目が集まっています。その名も「ポスト2015開発アジェンダ」。
国際目標というと、遠い世界の話と思われがちです。しかし、持続させたい社会を実現するために動くことは、世界も国も、そして地域も同じです。世界の動きを知り、個々の活動を振り返るとともに、関連する他の分野を理解しながら、「北海道の持続可能な社会」について皆さんと考えてみました。
プログラム
18:30 開会
18:35 第1部:ポスト2015開発アジェンダを知る
報告1「2030年を見すえた世界目標ってどんなもの?」
講師:稲場 雅紀 氏 NGOネットワーク「動く→動かす」事務局長
報告2「ポスト2015に関わる世界の動向とNGOの取り組み」
講師:今田 克司 氏 一般財団法人CSOネットワーク代表理事
19:25 第2部:北海道での世界目標の活かし方
提案「ポスト2015開発アジェンダ、地域でどう活かす?」
講師:平田 裕之 氏 地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)
20:10 交流会
進行:
池田 誠 氏 一般社団法人北海道国際交流センター(HIF)事務局長
小泉 雅弘 氏 NPO法人さっぽろ自由学校「遊」 理事
松田 剛史 氏 ソーシャルベンチャーあんじょう家本舗 代表
21:00 閉会
概要について
第1部 報告1:稲場さん 「Transformation:変革」のためのポスト2015 に
わたしが事務局長をしている「動く→動かす」は、主に国際協力、開発関係のNGO73団体が集まっているネットワークで、MDGsを達成するための政策提言とMDGsの周知、達成のためのキャンペーンを行っています。
「ポスト2015」は、その前に「ミレニアム開発目標(MDGs)」があります。MDGsとは、2000年の国連ミレニアム総会でできた目標です。グローバリゼーションの成果が不均等に配分されており、一部の利益を得ている人たちが非常に大きな利益を得て、他の一般の人たちや途上国の人たちは利益に預かっていないばかりか、損をしているということです。この状況を改め、みんなが均等に果実を受けられるようにするというのが、ミレニアム総会で採択されたミレニアム宣言です。
このミレニアム宣言を元に、MDGsでは8つの目標を立ていますが、特に貧困を無くすための開発を進めるということを焦点にしています。2015年後の目標であるポスト2015に関する国際交渉がニューヨークで行われている訳です。
私は以前、全く別のことをしていました。「動くゲイとレズビアンの会」という同性愛者団体のアドボカシーディレクターでした。その前は、横浜の寿町で、日雇い労働組合の医療班の事務局責任者をしていました。基本的に、現場での具体的な取り組みをベースにずっとやってきましたが、2002年以降、MDGsのような課題に移ることになりました。
国際協力の活動に移り、いろいろな出会いがありました。1つは、エイズワクチンの開発に取り組んでいるNGOの事務所を訪問したことです。HIVエイズの問題は、ゲイ、レズビアンのことをやっていた頃から取り組んでいました。その時、一番重要だったのはコミュニティをモビライズすることでした。そのため、なぜこのNGOがエイズワクチンの開発に取り組んでいるのかと、半信半疑でみていました。
その団体は、「エイズワクチンは途上国で一番ニーズがあるけれど先進国の技術を持ってでしか作れない。そこにしっかりお金を投入し、なるべく早く開発を実現し、さらに途上国へのアクセスもしっかりとやるのが市民社会の役割である」と言いました。いわゆる「現場」での取り組みだけではなく、政策提言や目の前にある課題ではないことをやっていく重要性をこの経験から学ぶことができました。それで今、ポスト2015に関することもやっている訳です。
本題のポストMDGs。MDGsの背景には1990年代後半以降のアフリカの大変な状況があります。1つはHIVエイズの問題。南部アフリカでは大人の5人に1人がHIVに罹っている状況で治療もなかった。今、人が死んでいるという話です。他にも、様々な理由で内戦が多発し、残虐な行為が繰り返されていました。5歳未満の子どもが1000人生まれても200人は死ぬなど、緊急事態でした。人の命を救い、貧困を半減し、教育や保険やジェンダー平等に取り組み、国づくりの基盤を整えて、経済成長に向かえるようになることがMDGsの意味な訳です。
ただ、MDGsは国連主導で作られたという問題がありました。途上国は自分たちの意見は聞かれなかったという総括をしています。だからこそ、ポストMDGsは自分たちの声をしっかり反映すると、途上国の政府は言っています。
もう一つの問題は、資金源として先進国による援助に依存していたこと。基本的に、社会構造を変えるというより、お金の無いところにお金を入れれば貧困はなくなるという発想です。ところが、リーマンショック、欧州経済危機があり、先進国の経済はガタガタになった。逆に、新興国と呼ばれる中国やブラジルなどが経済主体として挙がってきた。このような世界経済の変革に、MDGsは対応しなければいけないということで、ポスト2015が語られるようになりました。
基本的にポスト2015の肝は、極度の貧困を2015年までに半減し、残りの半分を2030年までに失くすことと、「持続可能な開発」です。後者は「国連持続可能な開発会議(Rio+20)」の流れです。環境文脈の流れですね。この持続可能な開発の流れが非常に大事なのです。今やらないと人が死ぬという緊急状況は何とかなってきた。そうなると、15年後、20年後に深刻になるだろう問題が見えてきました。
これは、北海道の問題でもあります。
例えば、若年失業。教育を受けて卒業しても仕事に全くありつけない。仕事がないことは不幸なことであり、大変なことです。次に高齢化。日本が直面している問題ですが、2030年にもなるとアジア全体が高齢化に直面します。気候変動によって災害が多発するという問題もあります。日本も毎年の台風で被害に遭っていますが、新興国や途上国はもっと激しく直面している訳です。
今後、大きな課題になってくるからこそ、持続可能な開発という文脈で、世界経済のあり方、社会のあり方を大きく移行していくことがポスト2015の肝になるのです。
「ポスト2015開発アジェンダ」の策定プロセスは、簡単に言うと2本あります。ハイレベルパネルというポストMDGsの流れ。もう一方は「国連持続可能な開発会議(Rio+20)」の流れです。
ポストMDGsの流れは、国連と先進国が主導で進めており、ハイレベルパネル報告書を昨年6月に出した後はやることがなくなってしまった。一方で、コロンビア共和国がRio+20において「持続可能か開発目標(SDGs)」の策定を提案し、ブラジルやメキシコがサポートする形で決まりました。基本的にSDGsづくりは、途上国、新興国中心に進んでおり、この動きが上手く回るようになってきたため、ポスト2015は、SDGsをベースにしようということになった訳です。
途上国重視という意味合いではいいのですが、政府間で決めていくことになり、市民社会の関わりについて問題が生じています。一応は入れることになっていますし、実際に意見も出しており、情報もWEBで公開されてはいます。ただ、市民社会の声がものすごく反映されているかというと、そういう訳でもないのです。
世界中のありとあらゆる問題を話し合っている訳です。その結果、17のゴール候補が出てきました。さらに、各ゴールに対して200以上のターゲットがあります。どれを減らして、どれを残すかという話をしていますが、各国が様々なオプションを持っているので、非常にややこしい交渉になっています。
対立点として、1つは先進国と新興国+途上国の対立が起こっています。例えば、実施手段。先進国はお金ありないので、資金や技術移転などについて明確な制約はしたくない。逆に新興国や途上国は資金や技術移転などで優位な制約を勝ち取りたい訳です。
もう一つは、「共通だが差異ある責任」。貧困を失くし、持続可能な社会を作る上で、主に責任を取るのは誰か。先進国はなるべく、責任を負いたくない。ところが新興国や途上国はなるべく先進国に責任を負わせたい。逆に、先進国はガバナンスや腐敗防止などの目標を導入したい。途上国は面倒くさいのでしたくない。さらに、文化や価値観、宗教感に関連している問題が存在している中で、二進も三進もいかないような感じになっているというのが現状です。
ポスト2015には、キーワードが3つあります。表のキーワードは、Sustainability、Inclusive、Resilience。しかし、一番考えなければいけないのが、裏のキーワード。「Transformation」。変革、移行です。持続可能な開発には、世代間平等が非常に重要です。現代の資本主義社会は、現在の効率性を追求しているので、資源を膨大に使って生産し、大量に消費するという仕組みになっています。地球2個分も3個分も食い尽くすような状況です。別の形に移行する、変革していかなければ持続可能性は達成できません。次の世代にまともに生きる場としての地球というのを受け渡していくために変革していかなければいけないというのが、ポスト2015の一番重要なポイントです。
このような視点で、ポスト2015を持っていく事ができれば、非常に重要なものになってくでしょう。様々な対立がありますが、この辺を適当にごまかすようなものになってしまうと、「こんなの作ってしょうがなかったね」という話になってしまいます。
市民社会として考えなければいけないのは、まさに、この表のキーワードを実現するための裏のキーワードです。「Transformation 変革」ができるようなポスト2015 にしていけるのかどうか。そこを考えていかなければいけなと思っています。
第1部 報告2:今田さん 現場とアドボカシー:「中と外との融合」を
MDGとSDGの両方のプロセスがあるため、「ポスト2015」と呼ばれています。それに対して、市民社会がどのように関わっているか。また、NGOのグローバルなプロセスへの関わりがどのように変化しているかについてお話します。
私はアメリカに12年、南アフリカに6年ほどおり、NPO・NGOの畑を20年ほど歩いてきました。1980年代からNGOはグローバルな過程に参加しようと、いろいろと取り組んできました。
それがある程度結実するというのが今日の1つの結論です。この「ある程度感」は人によって違います。ダメだと言う人、全く素晴らしいという人は少ないです。その中間にある訳ですが、2012年にリオ+20があり、SDGのプロセスが動いている訳です。
20年前、リオで「地球環境サミット」がありましたが、その頃に比べると「NGO」という言葉を目にするようになったかもしれません。人口や社会開発等、テーマごとの国際会議が世界各国で開かれ、当時、NGOはサイドイベント等で会場の外で自分たちのイベントをやり、意見をまとめて会場に届けるというのが主流でした。これと同時にデモもやる。その基本的なスタイルはそんなに変わっていません。
変わったこともあります。稲場さんは「キャンペーン」と「アドボカシー」という対比をされていましたが、わたしはこの両方を含めて「アドボカシー」と言っています。キャンペーンやデモ、啓発活動などは、一般への関心喚起ですね。
それと「中でネゴル」。ゴネルじゃないですよ。ゴネルだけだとどこにも行きません。過去20年の間でNGOがすごく伸びたことの1つがこの能力です。例えば、ポスト2015の話でいろんな分野があります。実際に話し合える専門性なり、知識なり、バックグラウンドなり、NGOがすごく強くなったというのが、ここ20年くらいです。
それが世界的にも他のアクターにも認められ、政府や国際機関がNGOを頼る場面が増えていった。この専門性は、いわゆる学者が勉強するような専門性とは違うものです。稲場さんが話したような現場を知っているということです。現場の知識に基づいた議論や論理の積み上げができる。NGOは一皮も二皮も剥け、他から認められるようになった。
NGOは「変革:Transformation」を目指しているんです。この対語は「Reform:リフォーム」です。リフォームは、今ある事を壊さないで、次にここを変えようという風に、どんどん付けていく方式です。トランスフォーメーションは、一回、ガラガラポンしなきゃダメなんです。政府と交渉して良いものを作ろう、ということはできる。ただ、それだけでは世の中が良い方にいかないという気付きがNGOの間にありました。NGOの能力は上がっているけれど、これだけでは世の中は変わらない。では、何が必要か。
日本ではまだまだ「デモは怖い」「すごく過激だ」というような意見が聞かれます。ただ、NGOは、ある程度過激に触れている部分もちゃんと見て、そういう人たちがいることも加味する必要があり、ある程度味方に付け、大きな流れを作っていくことを意識している訳です。
外でさわぐ「キャンペーン」と、中でネゴる「ロビイング」の二面性が、アドボカシーにはなくてはいけません。「外と中との融合」というのは、結構大事だということを申し上げたい。
NGO側から見たポスト2015の話ですが、15年前にMDGが作られた過程との違いをハイライトするならば、1つは「中でネゴル」力が増えたとこによって市民社会の実質的な関与が圧倒的に大きくなったこと。
ポストMDGに関しては、2013年に国連ハイレベルパネル報告書ができましたが、国連や政府はいろんな地域の人を巻き込んで作成しようとしました。ただ、地域の人たちを直接巻き込むという訳にもいかないので、NGOに場を作ってもらって、そこに政府と国際機関が出かけていく。かなりいろんな意見の徴収をして、記録をしっかり取って、本当にやりました。
ただ、そこでNGO側はかなり疲弊はしたんです。まだ終わりではなく、今度はSDGづくりになった。MDGのことを忘れ去られているというので、非常にフラストレーションも溜っている。SDGは政府間交渉です。政府間交渉というのはNGOも慣れていないんです。どこにどうプッシュすれば何が開くのか、NGOもよく分からないという苦労もあります。
アミーナ・モハメッド国連事務総長特別顧問。この人が今秋、統合報告書というのを書く人です。かなりの役割の人です。日本政府は、この人と日本のNGOとが会う機会を設定をしました。かなり画期的なことです。15年前では考えられなかったでしょう。NGOが内容的な面で役割を果たすであろうことと、こういう人と話をすることによって、またその次へ繋ぐことができるだろう、ということがあるわけです。
ただ、全くのバラ色のように解決はしていない。果たして結果につながるのか。プロセスの複雑化というのにNGOも翻弄されているというのも1つです。
アクセスとインパクトの違いとも言われます。つまり、アクセスはできるようになった。外で騒いだり、自分たちの声明文を作って中に届けるということだけでなく、実際に同じテーブルで話すようにはなった。専門性が認められたということですね。ただ、最終的には国家間で物事を決めることですから、NGOは意思決定者ではない訳です。また、多国間交渉の難しさもあり、自分たちの主張の結果かという事に関して、まだまだ首を傾げなければいけないところもある。
では、NGOは何を目指しているか。リフォームではなく、稲場さんのいうトランスフォーメーション、変革を目指しているというのが1つ。
もう一つ、ポスト2015で明らかに見えているのが、極々単純化して言うと「環境と開発を人権でつなぐ」こと。基本的に開発のプロセスMDGと環境側のSDGのプロセスがあって、それを人権でつなぐ。例えば、気候変動というのは、圧倒的に国際的なコンテックスと文脈においては、人権の問題として語られます。災害があった時にだれが一番そこの被害を受けるのか。国レベルでも、人のレベルでも、社会的に恵まれていない立場にいる人が被害をこうむる最前線に立ってしまう。紛争もそうです。
開発や環境という名の下に行われているものを見た時、周縁化された人々、脆弱な人々が主人公になって、その人たちが自分たちで動けるような状態を作るというのがNGOの主眼。人権でつなぐというのはそういう意味です。
もう一つ例を言えば、世代間の問題ですね。将来世代の声は、大人ばかりがしゃべって非常に小さくなってしまう。届かない場合が結構あります。女性もそうです。例えば、Rio+20のいろんな機構のつくり方の中で、女性とか若者、子どもというのが1つのグループ化されて、一応声が通るようにとなっています。裏返して言えば、そういう人たちの声が届いていないという意識がある。
NGOの力というのは、こういった人たちのことを考えて、環境や開発のアジェンダをやるべきなですね。通りつつありますが、まだまだ先は長いと思います。
NGOの仕事のやり方として、特にグローバルな場で影響力を持とうとした場合には「ブランド力で攻める」というパターンがあります。既にある程度しっかりした連名の形式があって、国際NGOと言われるようなものですけれども、結構影響力を行使している。
その他、単体、シンクタンク系というのがあり、専門性とか知識の質と量で攻めるというものもあります。
これらの中間に属しているのが、グローバルなNGOネットワーク。これが一番見えにくいですが、実は流れとしては今大きく起こっていることなんです。「コアリション」ともいいます。個々のNGOは現場ベースでやっているのですが、それをちゃんと横につなぎ、大きくなってネットワークとして影響力を行使しようということです。
ということで、「中と外との融合」というのが一番申し上げたかったことです。
第2部 提案:平田さん 「地域の課題発見のキッカケに」
今の話をどうやって地域で活かしていけばいいのかについて、お話させていただきます。ニューヨークの議論を聞かされる違和感がありますよね。「世界ではSDGsというのが議論されています」「17の課題が出されたので紹介します」「世界の動きを知り、地域に活用しましょう」なんて言われても、なかなか伝わらないと思います。
今日、お話した世界の流れというのは「地域で課題を発見するキッカケに過ぎない」と考えるのがよいと思っています。1つは地域で議論をしていくために、ちなみに世界ではこうなっていますという話をする。また、海外との共通項や海外と違う部分を知るための材料とすることが重要です。
1)地域のこれからの未来に向けて重要な課題は何かを考えること、2)その課題は地域内の関係者と共有できているかということ、3)課題を解決するための解決策や目標が設定されているか、4)それを誰がどういう分担でやっていくのか。これらを考えることがもっとも重要になってきます。
世界というと、何となくバーチャルな感じもあります。しかし、様々な地域が重なって世界と呼ぶということであれば、日本もしくは地域の様々な課題は何なのかということを一人一人が認識して、共有していくというプロセスが重要ですよね。そのキッカケとして、世の中の流れを上手く使えないかということが大切。
地域が強かになっていかなければならない。地域のことを大切にしながら、世界を上手く使い、世界とつながり、世界に貢献しようとする。もしくは課題を共有して一緒に解決していく。グローバルにつながっていくという本質だと思う。
一番最初に、地域の課題は何か。○○地域における課題があり、次にそれをまとめていった時に日本における課題がいくつかみえてくる。さらにSDGsという時に、世界の重要課題と共通するものがみえてきます。 大きな課題は共通しているけれども、解釈が異なっているような問題もあります。また、世界の課題の中には出てこないけど、日本としてはすごく重要な課題もいくつかあるでしょう。
日本は先進国であるがゆえに、「課題先進国」とも言われています。貢献できることがたくさんあるかもしれない。さらには、こちらで課題だと思っていることが、別の地域と同じであったり、ソリューションがあったりということが見える。そのキッカケとして、今のポスト2015が使えないだろうかということです。
地域の課題というものに紐づけて、国際課題を国内課題の取り組みにどう活用するか。SDGsの流れをどう活用するかという戦略が必要になってきます。自分たちの地域課題を解決するために、「使えるものは何でも使おう」と捉えることが非常に需要。今話している議論と、自分たちの取り組みというものが繋がっているということです。
国内を見ると、日本の子供の7人に1人が貧困であり、OECD加盟国30か国の平均値よりも上回っているという現状があります。親が経済的貧困になると、子どもは学習機会が低下し、若者の経済的貧困につながり、ループになってしまうということもいわれています。これは海外で起こっているのではなく、今の日本の現状ということです。
それに関連して、経済格差が学力格差を生んでいるというデータもあります。これは日本の中でも大きな課題となっていてるのですが、今の日本はこういったことを軽視し過ぎている。国内の貧困も考えていかないと、後々取り返しのつかない状況になると発言する方もいます。
日本の2030年、40年のデータを集めているのですが、自然環境、地域づくりをやっていく中で、どうしても重要課題として人口減少がいろんなことをもたげてしまう。これからの日本は、あらゆる問題に人口減少が絡んでくる。増田レポートが発表されて、1700ある自治体うち約半分の自治体が消滅の危機になると言われた。労働人口の減少、社会的インフラの対応の遅れなど、インフラが維持できなくなり悪化の懸念がある。また、社会保障の負担増加や、一次産業衰退による里山・里地の多様性の低下も懸念されています。
一方で世界では、非常に若く、活力があり、人口が増えていく。世界のどこも体験したことがない状況です。人口減少に関しては、日本はトップランナー的に課題に直面しており、課題先進国・日本の解決策を世界は注視している。つまり、地域の問題認識と問題解決こそが、実は世界と繋がっているという発想な訳です。
別の視点で。女性の大学進学率の増加がライフスタイルにおいて、専業主婦志向から仕事と家庭の両立や非婚、就業志向へと変化したと言われています。つまり、日本は女性が仕事をしていくうえで、非常に大きな課題を持っている。ジェンダーギャップ指数を見ても、日本は136か国中105位です。
先日、結婚とか出産が自分がビジネスをしていく上で邪魔になる、阻害になると女子学生が言っていました。若くて起業しようという女性は、仕事を頑張るために家庭や出産を捨てるか、出産や家庭を持つために仕事を捨てるかという非常に狭い選択肢に追いやられているということです。
これは非常に大きな問題で、人口を減少させるという社会構造を我々自身が作ってしまっている。地域を活性化していこうとか、自然の生態系を守って地域を守ろうということもなかなか難しい。
また、世の中のことをすると地域に帰って来てくれないのではないか、みたいなことをいろんな地域で聞くことがあります。私の仮説なのですが、皆さんが地域課題などを解決する中で、地域における「シャケ型人材育成」が必要なのではないかと思うのです。つまり、大学、就職で一度地域から出てしまう。しかし、外の世界を知ることで地域の良さを認識して、30代、40代になるともう一度地域に戻って来て就職するということ。これをやるためには2つ重要なことがある。
まず、30代、40代が地域に戻って就職をする時に、住環境と就職環境の整備をちゃんとしないといけないということ。もう一つは、18歳で大学に行くと仮定しますと、18歳までに地域の中で愛着を持つ教育の実施ができないかということ。例えば、地域で仕事を作る体験や地域の自治体と一緒に政策を作る体験、歴史・文化体験をするなど、地域の中で愛着を持つ実体験、原体験をすることによって、30代、40代になった時に、「もう一回、帰ってみようかな」と思うのではないか。
兵庫県尼崎市では今、「あまらぶ」という取り組みをしています。この企画立案者は、「地域が嫌いだという人の元で育つと、その人は地域が嫌いになって出て行ってしまう。地域が好きな人に出会うと、その地域を好きになる」と、言っています。18歳くらいまでに地域に愛着を持つ人を教育できるようになると、戻ってくるのではないか。これが、地域における「シャケ型人材育成」ということです。
行政だけが働く場所や居住環境を作ってもダメ。企業がどんなに雇用の条件を作ったとしても、愛着を持つには地域の人たちや学校の先生、NPOなどいろんな人たちが「いつ出て行ってもいいから、もう一回、戻っておいで」ということをやらないといけない。そんな仮説を立ててみました。
今、SDGsという世界的な話と、自分たちの地域に紐づけるという話をしました。その往復運動がある中で、世界と比べてどうかということが次に出てきて、世界中の解決策や課題を解決する国を超えた地域同士の連携ができるなど、言えるのではないかと思います。
質疑応答
会場:MDGs、SDGsの考え方を地域の課題に落とし込むためには、どういったアプローチが必要なのか?地域とMDGs、SDGs繋ぐための戦略、策略があるのか?
会場:MDGs、SDGsについて熱心に取り組まれているかと思うのですが、今の日本を見てもイマイチ浸透していないように見える。大切なことだと思うのですが、なぜこれが日本において浸透していないのか、また、浸透させるにはどうしたらいいのかについて、何か取り組まれていることがあれば教えていただきたい。
会場:「環境と開発を人権につなぐ」という言葉を掲げているというお話がありましたが、どうもピンときませんでした。もう一度お聞きしたい。
会場:MDGs、SDGsにも教育が不可欠だと思いますが、市民を教育するという点において具体的にどのような取り組みがなされているか教えていただきたい。
平田さん:
地域にどうやって落とし込むのか。すごく難しいところですね。要は、ある一定の人たちが目標を共有したところで、それが責任分担されなければ意味が無い訳です。それは行政がやってよ、企業がやってよ、というようなことで、地域みんなで目標を立ててやっていこうというようなことが、実はあまりうまくいった試しがない。まさしく、そこが今課題。どうやって課題を共有していくのかが難しくて、今、具体的に取り組んでいる事例を2つほど紹介させてもらいたい。
一つは、地域円卓会議というのをいろんな地域で具体的なテーマを持ってやっています。例えば秋田では「雪下ろしも問題」、沖縄では台風の発生時における自宅介護の人たちへ電源確保」について、地域の人が集まって協議し、役割分担をすることは行われています。つまり、個別の具体的な課題をどうするのかについての話し合いは行われています。
それをもう少し拡大した形で、「地域の未来をどうしていきましょうか」というようなことも、やればできるのかもしれない。議会や行政でやっているところもありますが、そこだけで解決できないものについて、あり方も含めた取り組みの芽は生まれています。フューチャーセッションという、わたしたちの未来を考えるため、それぞれのテーマを持ってやっていこうという取り組みもあります。
問題は、地域の本来役割を果たすべき人たちがテーブルについて、どうやって役割分担していくかということ。NGO、NPOの場合、自分たちの志がある人たちだけで話していくということはできるのですが、利害関係が対立するような人たちも集めて、その中で、時には妥協点になるのかもしれませんが、合意形成していくのが非常に難しい。
ただ、実はそのプロセス自体が「ESD」「教育」という部分なんですね。ESDは、我々自身が自分たちで気付いて、意識改革、行動改革していくということです。学校の中で何かを教わるのではなく、自分たちが課題に向かって行動を変えていくための自発的な学びということです。
稲場さん:
MDGsがあまり知られていないというあたりの話をします。MDGsの8つの目標というのは、まずは極度の貧困をなくすこと。2番目がみんなが初等教育を受けられるようにする。3つめがジェンダー、4、5、6が保険、7が環境、安全な水の確保、8つめはパートナーシップの推進です。
詳しく見れば、MDGsは先進国、日本の課題でもありますが、日本政府は日本の人たちの生活が変わるようなこと、日本の法律を変えなきゃいけないことは約束できないので、MDGsというのは基本的には途上国の問題で、途上国の貧困をなくすという話ですよ、という風にしてきた訳ですね。
その結果、そもそも日本は経済が大変ば状況で、自分の国をどうするかというメンタリティであり、MDGsといっても確かに途上国に心を寄せる一部の人にとっては大きな課題として一所懸命やろうとしますが、そうではない人にとっては、よその人の話になってしまった。あまりMDGsに乗りが良くなかったのは、そういうことがあるのかと思います。
付け加えると、例えば、イギリスやアメリカは、基本的に自分たちは世界帝国であり、世界と関与するのは当然だというある種の常識がある。昔の巨大植民地帝国などはそう。ところが我が国は、もちろん、いろいろな歴史的な問題はあっても、巨大植民地帝国だったという意識を持っている人はあまりいませんよね。そうすると日本としてはあまり関係ないという風になってしまったのではないかと思います。
我々としては一生懸命、MDGsと言ってきたのですが、結果としてはそんなに大きなインパクトをもたらすことができていないというのが残念ながら事実ですね。SDGsに関しては、これがガラッと変わります。今ある17の目標を見てもらえれば分かる通りですが、これ、実は大変なんです。
例えば、目標10の国内および国家間の不平等を減少させる。これはどういう意味か。途上国、新興国、先進国の間の不平等を減少させるということです。つまり、不平等をなくすために、新興国や途上国は、先進国が持っている技術をよこせという交渉をしている訳です。先進国という立場と新興国、途上国という立場の力関係が大きく変わろうとしている中で、この力関係をもっと早く変えるような形の目標というのが例えば10番にある訳です。
あるいは、生産と消費のパターンを持続可能なものにする。例えば、我々の生活水準をどういうものにするのかということとすごく関係した議論です。あらゆる産業と関係する議論になってくる訳ですね。
世界全体で、SDGsを本気で決意してやるという話になれば、我々はまさに自分の生活として考えなくてはいけないくなってきます。それを推進するかどうか、大きな問題となってくる訳ですね。当然、自分たちの生活水準を下げたくないと抵抗する人たちも出てきます。難しい問題がすごく出てくる。
トランスフォーメーションできるかどうか。つまり、50年後、100年後の人類を考えられるかどうか、想像力があるかどうか。こういうようなところで、かなり変わってくるんだろうなという風に思います。 MDGsとSDGsはかなり違うものだと考えると、我々もMDGs時代のように途上国の問題だといって無視していいという訳にはいかい。必然的にそうなるのではないかと思います。
今田さん:
稲場さんのお話の補足と、「環境と開発を人権でつなぐ」という部分について。
まずは、「環境と開発を人権でつなぐ」ということについて。 開発というものが変化してきた歴史がまずあります。戦後50年代、60年代の主流の考えは、誰かがお腹を空かせているなら魚をあげましょうというのが第一段階だった訳ですよね。チャリティーというのがそれに当たる訳ですね。
でも、それをいくらやっても、その人たちの飢餓状態はなかなか直らない。あげている間は食べられますけど、そうではない時は食べられないので。緊急時には今でも必要なアプローチですが、必要なのは、その人がいろんな技能を持って、自分でやれるようになること。トレーニングとか能力強化と呼ばれるようなものがそれに当たるんですね。
れをやって、ある程度仕事ができたのかと思ったら、まだ上手くいかない。なぜ上手くいかないのか。そこでNGOは、はたと考える訳ですね。今までの支援、アプローチは何が間違っていたのかと。物事の構造や仕組、成り立ちをしっかりと咀嚼した上で、自分たちの事業を展開していなかったと気が付く訳です。改善されない状態にいろんな理由であるということを、権利が侵害されている状態だという風に考えるようになった訳です。
環境や開発、人権などいろいろな分野でNGOに限らず活動している人がいると思われているかもしれません。そこでの考え方の発展は、人権というのは、人権NGOがやっている古くからの人権問題もありますけれども、他の分野においても1つの物事を考えるアプローチとして定着してきたということなんですね。
気候変動の問題でも、気候変動で温度が何度上がって、氷が解けて、云々という話は皆さん分かっていると思います。では、水位が上がることによって誰が水害に遭うのか。川の際に住んでいる人だったりする。なぜ川の際に住んでいるのかというと土地が安いから、とかね。脆弱な環境に置かれるということも、自分たちの権利が侵害されている状態に近いものだと考えるというのが、権利ベースのアプローチというものです。
人権、権利というレンズで環境や開発の問題を考えようということが、今、NGOの中では主流になりつつあるので、ポスト2015においてもこの2つを「人権でつなぐ」と申し上げたのはそういう意味です。
別の流れもあります。いわゆる人権というものを考える時、政治的・市民的な権利を思い浮かべることが多いと思います。もう一つの流れとして、人権のことを考える人たちのなかで出てきた考え方ですが、経済や社会、文化にまで権利の範囲が広まったというのもあるんですね。かなりこれは大きなことなんです。
例えば、貧困、経済問題は、昔は人権の問題ではなかった。それが、第二世代くらいから貧困も経済的権利が侵害されている状態だと、人権の問題として考えるようになった。以前は、例えば、貧困問題は開発の人たちが、政治的な信条で牢屋に入れられた人については人権のNGOがやってくださいというような垣根があったんですね。今、それが結構自由に行き来できるようになったりもしていいます。「人権」が、特にNGOの間で1つのアプローチとして広まっていき、このような考え方、見方、レンズで開発や環境の問題を考えることが主流になりつつあります。
ただ、1つ申し上げなければいけないのが、それはNGOの間では主流になっていますが、国際交渉の場面で主流になっているかというと決してそんなことはないということです。
例えば、途上国の力が国際交渉の場で強くなっていますが、途上国の中では人権と開発をトレードオフのように言う首脳や大統領がいます。経済的発展が第一に大事なので、人権の問題を二の次に考える人たちにある程度の発言権があるような今のグローバル社会においては、人権というのはまだまだ主流化されていないというのが現状。そこはNGOが戦っている部分です。
稲場さんの補足ですが、まさに途上国の課題であったということから日本においてMDGsがなかなか浸透しなかった。それが、環境のアジェンダが入ることによって、日本でもかなり自分たちの地域課題とつながりやすくなったというのが1つあると思います。
さらに、人権アプローチということであれば、例えば若年失業という雇用の問題を考える時に、人権のアプローチ、権利のアプローチでそれを捉えることは、国際的なNGOの主張の流れと一緒になることなんですね。例えば、一生懸命勉強して卒業しても正規職員になれないというのは、自分たちの権利が侵害されている状態に近い状態なのではないのか。
日本の中でもSDGsの中にも入っていますけれども、気候変動や災害の問題、雇用や仕事の問題等々で、国際的な発想に近づく1つのチャンスというか、そういう契機になっているのかと思います。
<交流会>
第3部の交流会では、池田さん、小泉さん、松田さんに進行役をお任せし、3つのグループに分かれて、それぞれが課題だと思うテーマについて出し合うことで、北海道の持続可能性について話をしていただきました。
「人口減少」「少子高齢化」「都市集中」をテーマとして挙げられた方が数人いらっしゃったほか、「北海道人は飽きっぽい」「学生の内向き」「地元の価値に気付かない」「挨拶ができない」などの性質的なものを挙げられる方が多くいらっしゃったのが印象的でした。「生物多様性」「冬のエネルギー自給率」などの環境に係るテーマから、「アイヌの権利回復」にも触れられていました。
アンケート結果では、概ねご好評をいただきました。ただ、SDGsやMDGsの理解が深まったという方がいらっしゃる一方で、難しかったというご意見や、具体的に何をしてよいか分からないという感想もいただきました。
参加していただいた皆さま、開催にご協力していただいた皆さま、ありがとうございました。(有坂)
主催、協力等
<第1部について>
[主催]NGOネットワーク「動く→動かす」、特定非営利活動法人アフリカ日本協議会、一般社団法人環境パートナーシップ会議(EPC)
[協力]地球環境基金
<第2部および交流会について>
[主催]環境省北海道環境パートナーシップオフィス(EPO北海道)
<全体について>
[企画協力]NPO法人さっぽろ自由学校「遊」、一般社団法人北海道国際交流センター(HIF)、ソーシャルベンチャーあんじょう家本舗
[協力]北海道NGOネットワーク協議会、フェアトレード北海道、NPO法人ezorock、NPO法人EnVision環境保全事務所、NPO法人環境活動コンソーシアムえこらぼ、認定NPO法人北海道市民環境ネットワーク、JICA北海道、酪農学園大学農食環境学群環境共生学類、公益財団法人北海道環境財団
[後援]公益財団法人札幌国際プラザ