平成25年度 ESD学び合いフォーラム(第16回高校生環境学習ポスターセッション合同開催)報告
2014年12月14日(土)に北海道大学学術交流会館にて平成25年度ESD学び合いフォーラムを開催しました。
ESD学び合いフォーラムでは、NGO/NPO、学校、企業などが行う持続可能な社会のための人づくりにつながる取り組みを発信しています。また、高校生環境学習ポスターセッションとの合同開催により、世代を超えて互いの持つ経験や、取り組みの楽しさを共有し、学び合うことを目的として開催しています。
2013年は国連によって国際水協力年に指定されていました。
工業と農業、都市と農村、国と国、現在と未来を見据え、持続可能な社会を実現するために協力していくことを確認した年であり、本フォーラムでは講演前にプロジェクトWet*の体験コーナーを設けて、水環境の学びと楽しさを来場者に体験してもらいました。
*プロジェクトWetとは
プロジェクトWET (Water Education for Teachers)は、水や水資源に対する認識・知識・理解を深め責任感を促すことを目標として開発された「水」に関する教育プログラムです。
基調講演「環境教育とESD 大沼の水環境への取組を通じて」
北海道教育大学 函館校 田中邦明 教授
大沼はラン藻類が浮き上がり水草がほとんどない状態で水質が悪化してきていました。そこでESDによる大沼地域の持続的発展を目指し、2006年から大沼をきれいにする活動を始めました。
七飯町では肥育畜産や酪農が営まれていますが、大規模農家では輸入飼料でしか成立せず、出てきた堆肥を農地で循環させることができなくなってしまいます。すると堆肥中のリンや窒素が川を流れて大沼に入ってきます。環境問題は世界的な食糧の輸出入にも関係しているのです。大沼では毎年、北海道国際交流センターが中心となり大沼の環境保全のために国際ワークキャンプを実施しています。水質浄化のためのヨシ筏づくり等、海外の若者と地元の人々が協力して、持続的な取り組みを始めています。
北海道大学水産学部の先生にも協力してもらい、在来の水草類の水質浄化能力を研究してみました。すると自然状態にある水草によって水質が浄化されることが分かりました。大沼にはたくさんのヒシの群落がそもそも存在していたのですが、その植物群落がなくなってしまったことが水質悪化の原因になっている可能性があります。そこでヒシの植栽を始めたのですが、漁師さんからヒシが漁に支障をきたすことから中止を求められました。このヒシですが調べてみると、アイヌの人たちの大事な食料であったことがわかりました。なんとかヒシをうまく利用できれば、漁師さんも増やすことを喜んでくれるのではないかと考え、ヒシの調理法も考えています。
また、地域の発展も同時に考えるために、次の時代を担う高校生・大学生を対象とし、市町村やNPO、地元企業にも参加してもらい、渡島大沼青年環境サミットを開催しています。1日目にフィールドワークを行い、2日目には農業グループ、漁業グループ、観光グループに分かれて学生たちで議論をして、最後に「渡島大沼環境アピール」として提言を行います。商品開発を行いその収益で環境保全を進めていくなどのアイデアが出ており、町が実際に取り入れたものもあります。
環境問題は一人では解決できない、問題に取り組むためには協働の輪が必要になってきます。多くの人の協力を得なければいけなりません。
教育の力で環境問題の解決を、ひとつの分野に留まらず、食・観光など地域の産業や文化にも目を向け、まわりとの関連に気づくこと、複数の主体で取り組むことの重要性を、実践事例を通してお話し頂きました。
第16回高校生ポスターセッション発表
優秀賞(2校)を受賞した高校生達が発表しました。
「早春の野幌森林公園におけるアライグマによるエゾサンショウウオの捕食状況」
北海道札幌啓成高等学校科学部
「トンボはどこからどこへ?マーキングから分かるトンボの移動」
北海道旭丘高等学校生物部
発表の後に、北海道立教育研究所附属理科教育センター次長の岡本さんより、
「こういう作品を作られるということは先生と生徒さんとの間にコミュニケーションがあり、先生がこういう場に生徒を連れてくることも素晴らしい。形にしたことは一生忘れないと思う。」
と述べ、各作品ついて講評を行いました。
学校・地域の取り組み
学校が地域の人達と連携して取り組んでいる事例を報告して頂きました。
「地球の宝「海」をきれいにしよう」遺愛女子中高等学校教諭 雁沢夏子さん
海岸には拾っても拾ってもゴミがやってくる。そこで漂着物の統計を取り起源を調べる活動を生徒たちと始めました。ただボランティアでゴミ拾いをするのではなく、拾った物の分別・分析をすることで楽しさや、びっくりするような物が見つかるわくわく感が出てきます。読み取った結果はできるだけ生徒の力でポスターや展示物を作って発表することで校内、市役所、地元の人々へと伝えていきました。他の先生たちや、地域の皆さんの支えのおかげで継続して活動しています。参加した生徒は、大変ではあるけれどすごくやった気分になれる、充実感を持てると言っています。「海は世界とつながっている」、「ゴミのポイ捨てはいけない」、これらは誰もが知っていることですが、実際に現場で体験することで驚き、現実問題として考え、自主的な行動につながっていくのだと思います。現場体験がなにより大切です。
「縁がもたらすもの」北星学園大学 心理応用コミニケーション学科 4年 尼野栞理さん
英語を勉強しているけれど、英語はツールでしかないのでは?自分は英語で何ができるのか。そんな疑問を抱えていました。私のいる学科ではコミュニケーションの実践のために、地域の団体・企業が持つ現場で学生の実習を行うというちょっとユニークな単位があります。私は自然ガイドのスタッフとして5ヶ月間、現場を体験しました。事前学習→実習→振り返りという流れで、スタッフとしての知識や態度はもちろん、子どもの参加者や年上のスタッフとの距離の取り方など、実践して初めてわかることがたくさんありました。また、たくさんの人とつながることで気づいたことがあります。北海道に来た外国の人とキャンプで交流するなど、自然に興味のない人達も巻き込んで広げることができたのです。「自然と国際交流」、「自然と語学」など、プラスアルファすることで人とつながる、さらに次の面白いことにつなげられる。こういったことは実践しないとなかなか自分の物にはなりませんし、社会に出てからも重要なスキルだと思います。こうして学んだことを今度は社会でも実践していきたいと思っています。
学校や地域の取組事例を会場でポスターでも紹介しました。
北海道高校生自然環境 |
旭川実業高校 |
遺愛女子中学高等学校 | 北海道教育大学函館校 道南支部高等学校環境教育研究会 |
北星学園大学 |
パネルディスカッション
NPO法人ezorock代表の草野竹史氏がコーディネーターとなり、高校生、大学生、先生達を交えて、取り組みの楽しさや、広げていくにはどうしたらよいかについて語り合いました。
取り組みの楽しさについて
- 思うようにいかない時もあるけど、面白い調査結果が出たり珍しいものを見つけたときはすごく嬉しい、そうなれば体力的な苦痛は気にならない。
- 初めは積極的じゃなくても、そこで自分の役割を感じられることで考え方が変わった
- 尊敬できる先輩などがいて自分もそうなりたいと感じること
取り組みを広げていくには
- 作り上げた物語を他の人に伝えること。好きな気持ちを上手く伝える事で人を上手く巻き込むことにもつながる。
- 本当に取り組みが好きな生徒達に発表する機会があること。それが他の生徒を巻き込む力になっている。
- 地元の人達や行政機関とつながること。つながることは大切。
- 知的な葛藤を持つこと。問題意識が出てきて、考え、行動するようになり、問題解決のために協力することでつながりができる。
コーディネーターの草野さんより
「つらいこと、悔しいこともあるけれど、だからこそ次の行動を起こす意欲や楽しみにつながった、
困難に対応する方法を教えてくれる先生や、何かを実施する際に学校や地域、行政との間を持ってくれるコーディネーターの存在が重要ではないかと思います。」
と最後にまとめて頂きました。