さっぽろ自由学校「遊」におけるESDへの取り組み
さっぽろ自由学校「遊」におけるESDへの取り組み
さっぽろ自由学校「遊」は、「市民がつくる市民に開かれたオルタナティブな学びの場」として札幌を拠点に活動している市民活動団体(NPO)です。具体的には、環境・開発・人権・平和・多文化共生などをテーマに年間30コース程度の連続講座を開催している他、映画上映会や講演会などの公開イベントの開催、国内外へのスタディツアーの実施、ブックレットの出版など様々な形で市民の教育・学習活動を行っています。
当団体では、4年ほど前からいくつかのねらいをもって、ESDへの取り組みをすすめてきました。「北海道という地域性に根ざした学習活動を広める」ということを柱に、大きく以下の2つのアプローチによる活動を行っています。
● ESDへのアプローチ 「持続可能な地域づくりのための学び」
一つは、道内各地でのワークショップの開催です。2003年の夏に行った、2回にわたるESDファシリテーター研修合宿の後、地元 NPOなどと協力して道内各地でESDワークショップを開催してきました。過去4年間に道内10地域で延べ15回のワークショップを行っています。初期のワークショップは、南北格差や環境問題などへの気づきを目的としたものでしたが、次第に各地域に固有の課題を出し合い、これからの「持続可能な地域づく り」のビジョンを構想していくようなものとなっていきました。
2006年度には、帯広・函館・江別の3地域で、参加者が実際に地域の現状を調べ発表しあう参加型の地域調査を取り入れたワークショップを行いました。調査実習を組み込んだこの取り組みは参加者にとってはハードルの高いものだったと思いますが、参加型の学びを具体的な地域づくりにつなげていくための実践として手ごたえを感じるものでした。
例えば、帯広では調査の一つとして家畜ふん尿を利用してメタンガスを発生させエネルギーとして利用する「バイオガスプラント」を導入した牧場の調査が行われ、こうしたプラントを普及させるための手立てを引き続き調査していくことが提案されました。また、函館では、参加者の一人の発案による「フットパス」事業が調査という段階から既に事業の実現に向けて動き出しています。江別では、「映像を使った地域CMづくり」という他の地域とは異なる表現方法が取られましたが、映像作品をつくるという共同作業の中で、地域に古くから暮らす年配の方々と大学生などとの間に、世代を超えた交流と新たなつながりが生み出されました。
● ESDへのアプローチ 「アイヌ民族との共生のための学び」
ESDを行う上でのもう一つのアプローチは、北海道という地域の未来を考える上で欠かすことのできない「アイヌ民族との共生に向けての学び」を広めていくということです。「アイヌ民族との共生」という課題は、私たちがこれまで常に重視していたテーマではありますが、ESDという概念を手がかりにアイヌ民族との協 働をより意識した取り組みにチャレンジしています。その一つが、アイヌ民族の文化や活動を訪ねるフィールドツアーの開催です。
過去4年間に、伊達・登別、静内・浦河、平取町二風谷、旭川、札幌で、地元のアイヌ民族の方々の協力を得てフィールドツアーを開催 しました。そして、2006年には世界遺産に登録された知床半島を訪れ、アイヌ民族がガイド役をつとめる先住民族エコツアーを実現しました。また、 2005年11月には「共生への学びをつくりだす~アイヌ民族と共に歩むために~」と題して1泊2日のセミナーを行い、アイヌ民族の文化や人権、そして学校現場におけるアイヌ学習の現状などについて議論しました。このセミナーの参加者はほとんどが和人でしたが、2007年10月には、アイヌと和人の両者が 平場で話し合いながら、アイヌ民族の権利回復や共生のあり方について考える合宿ワークショップを開催する予定です。
「ESDの10年」は、これまで個々に行われていた市民による小さな学習実践を、分野や地域や世代を超えてつないでいくための手 がかりになるものだと思います。さっぽろ自由学校「遊」では今後、自分たちの行っているESDへの取り組みをより一般化し、広めていくために、情報発信を 強化していくと共に、地域に根ざしたESDの教材化を進めていきたいと考えています。また、これまでの各地での取り組みの協力団体や参加者とのつながりを 基に、道内でのESDのネットワークをつくっていければと思っています。 (執筆:小泉雅弘)