【開催報告 2】シンポジウム「これからの環境教育のありかた~藤田郁男さんの功績と思いをつないで~」
2014年5月13日(火)に開催しましたシンポジウム「これからの環境教育のありかた~藤田郁男さんの功績と思いをつないで~」の中で行いましたパネルトークの様子をご報告させていただきます。
※メインスピーチの報告はこちらをご覧ください
http://epohok.jp/news/index.php?page=article&storyid=238
<パネルトーク>
パネリスト:
河村 勁さん(元北海道理科教育センター)
高木晴光さん(黒松内ぶなの森自然学校、NPO法人ねおす)
横山 武彦さん(環境学習フォーラム北海道)
田中 裕紀子さん(元 石狩kids代表)
進行:
久保田 学さん(公益財団法人北海道環境財団)
岡崎 朱実さん(NPO法人環境活動コンソーシアムえこらぼ)
岡崎さん:ここからは、藤田先生のお話をしながら環境教育を進めていくにはどうしたらよいか話していきたいと思います。
河村さん:現在、旭川市の科学館の支援ボランティアなどをしております。私は藤田先生の弟子として、理科教育センターに在籍し、巡検で教えを頂きました。理科こそ環境教育の中心にならないといけないと、人間と組織の関わり方や自然を読むことなどを教わりました。身の回りのものを見て感じる重要さを日頃からおしゃっていました。
田中さん:わたしたちはKJ法やワークショップを勉強して地域で何かできないかと思い、石狩KIDSを立ち上げました。でも、専門的な知識がないのでどうしたらいいか分かりませんでした。そんな時、厚田の油田や化石などについて藤田先生に教えてもらいました。わたしたちが楽しめないと子供には伝わらない、ということも教えてくださいました。
横山さん:藤田先生とは同じ理科教員なのですが、実際にお会いしたのは環境学習フォーラムでした。ひとつの事柄の裏にはいろいろなものとのつながりがあります。いろんな場面で活躍されている方々から、知恵をもらうことは大事です。藤田先生はつながりを大事にし、広い心を持って、いろんなところに飛び込んでいくところはすごかったですね。
高木さん:皆さん巡検で影響をやはり受けたということですね。藤田先生はフィリピンで理科教育の教材も作っていらした。ただ、当時の私にはそのような道具づくりの大事さを受け止めきれなかったな、と思います。
河村さん:都会に住んでいる人は、身のまわりをどう理解しているのでしょうか?その理解の仕方がだんだん浅くなっているように思います。効率よく勉強するために、書物やインターネットから知識を得ることには危うさもあります。自然を肌身で感じる体験の場面をもっと学校教育の中でやっていかないといけません。そのためにはインストラクターが必要だし、自然の中で大人と子どもが交わる場面が必要だと感じ、環境学習フォーラムの設立につながったと思います。
田中さん:今年、かつて活動に参加していた子が成長して訪ねてきてくれました。自分も藤田先生のような活動に携わっていきたいと言っていたのですが、そうした出会いも藤田先生がくださったものだと思います。
岡崎:会場にも藤田先生と関わりのある方がいらしているので、お話を聞いてみたいと思います。
菊田さん(北海道GEMS):私も元教員で、学校現場と社会をつなげるものがないかと考えていた時に藤田先生にお会いしました。先ほど教材という話が出ましたが、自然をどのようにデザインするか、見せていけるかを学ぶことができ、今後も活かしていきたいと思っています。
久保田さん:「もう一つの北海道環境白書」のインタビューの中でも触れられていますが、藤田先生は教員になった頃から子供の体験を重視しておられたようですね。
河村さん:藤田先生が学生の時は、研究内容を盛んに議論していました。教員になってからは、難しいことをどうやってやさしく教えるか。最初の10年は「楽しく経験する」というところを崩して、整理し直していたのでないかと思います。理科教育センターでは、体験させることを積み上げて、国柄、歴史的なこと、地理的なこと、地球規模で見た時など、環境問題は立場の違う人のつながりを大事にしなければ解決しないということを大事にされていたと思います。
横山さん:3.11以降、自然エネルギーを取り上げようとした時などは、「自然エネルギーは本当にいいのか」をしっかり勉強しました。その裏にもっと取り上げなければならないことがあるのではないかという視点をいただき、より高みへ導いていただきました。
吉迫さん(NPO法人北海道環境カウンセラー協会):平成12年に北海道環境カウンセラー協会ができました。当時は京都議定書があり、資源使用量や二酸化炭素の排出量など、環境マネジメントによって企業を見るという流れが出てきた時期でした。北海道でもHES(北海道環境マネジメントシステムスタンダード)ができました。「学びながら北海道でも広めていこうよ」と、藤田先生はおっしゃいました。今までの「環境教育」の話と異なるように見えるかもしれませんが、藤田先生にしてみれば同じことだったと思います。
向田さん(北海道地方環境事務所):北海道地方環境事務所は平成17年に設置されました。平成13年には環境全般を扱う環境調査官事務所が設置されていましたが、環境専門の人材がたくさんいたわけではなく、藤田先生のような方に来ていただいて相談に乗ってもらうことがありました。その後、環境教育推進に関わる法律ができ、教員の方などを対象に環境教育リーダー研修をすることになり、真っ先に藤田先生にご相談しました。平成22年まで取りまとめから企画、実施まで担っていただき、300名前後の方々に実施することができました。私は直接の担当ではなかったのですが、お手伝いする機会があり、「実は朝6時から北海道の雪について知ってもらいたくて準備していたんだよ」と話しかけてくださった。早朝からの活動にも驚きましたが、私のようなものにも話しかけてくれたことが大変嬉しかったのを覚えています。その9か月後に再会するのでが、その時も親しく話してくださいました。そうしたお人柄もとても印象に残っています。
池田さん(北海道農政局事務所):平成14年の4月に環境省に配属されたのですが、右も左も分からない中、いろいろな話をしてくださいました。職員は「分からない」ということを言ったらダメなのでしょうが、本当にいろいろ教えていただきましたし、一緒に考えてくださいました。自分の中でも特別な3年間であり、その頃の考え方は今も変わらずに自分の礎になっています。
小林さん(真駒内川水辺の楽校):藤田先生には川の科学のカリキュラムを組んでもらいました。なぜか、藤田先生に来ていただく時は雨の日が多かったです。大きなバッグにいろいろな道具を持ってきてくださったのですが、「雨ならちょうどいい、これにしよう!」と言って、雨を喜んでくれました。雨だと参加人数が少ないので、スタッフの勉強会になることも多く、いろいろ教わりました。先生は誰にでも親しげに話してくれます。子どもたちのために、これからもこの楽校を続けていきたいと思っています。
久保田さん:行政、企業、そしてNPOなど、幅広い場面、分野で活躍をされていた様子がうかがえました。こうした幅広い現場での取り組みについてお話いただけますか。
高木さん:自然体験教育に科学的なアクティビティ行いつつ、起承転結をつける。緻密に組み立てて話されていた。かつ、長期スパンの視点も大切にしていた。ねおすの学生や研修生たちが、どういう立場にいるのかを知った上で伝えることを考えていらした。半日、一日、かつ長期も、常に「時間」を意識されていたように思います。濃密に時間の先読みをされていたと、今日のお話を聞いて感じました。
河村さん:旭川の科学館の仕事と環境カウンセラーを両立できず、退会した時の先生の顔を思い出します。現在の環境の中で、企業活動を法人として意識しつつ活動していかなければならなかったと思います。ささやかながら、旭川水と緑の会の中で異業種交流を進めてはいますが、今後はもっと進めていかなければと反省を込めつつ、この場に参加しています。
横山さん:藤田先生に誘われて、環境のさまざまな事柄を伝えていきたいと思い、環境カウンセラーになりました。自然体験・観察の楽しさなど、いろんなテーマや視点から環境のことを知ってもらい、自分事になった時、どんな行動を取るのかを考える大人になってもらいたいですね。
藤田先生から、月寒丘陵にある活断層や石狩低地帯の話などを聞き、足元にあるのだと気づかされました。「自分たちの今は、過去にアイヌの人などがすごしてきた先にいる」と聞かされ、広い目、長い目で見ることを教えられたように思います。また、たくさんの人とネットワークを組むことで、さまざまなことを助けてもらえると実感しています。
須藤さん(町内会):藤田さんと同じ町内会でした。平成10年から17年まで、町内会の副会長と連合町内会の青少年育成委員を務めていただきました。町内の女性部が組織する「わかば会」主催で、子どもたち30~40人と親に対して、七夕や十五夜などの時に、七夕のいわれや星空のこと等を教えていただきました。分け隔てがなく、嫌な顔を見たことがありません。毎年同じ空を見るのに、毎年違うことを教えてくれました。「月の横にあるあれは星ではないよ、宇宙ステーションだよ」。確かに流れて動いていく。大人のわたしも感動しました。クリスマス会の時も、いつも「環境」の話をしてくれました。印象に残っているのは、世界中で一番大切なのは「水」だということ。コップ一杯の水を浄化するのに200リットルの水が必要だと分かりやすく説いてくれました。今も子どもたちには、飲み残さないようにと教えています。
山崎さん(札幌市博物館活動センター):植物の学芸員をしています。13年前、就職したての頃にお会いました。ミュージアムセンターの今後を考える会にいらして、1年で会が休止した後も、いつも立ち寄ってくださいました。博物館をコーディネイトする手法について入れ知恵してくださっていたように思います。大人向けの連続講座を教材持参で実技をしてくださった時、参加者がいきいきして、終わらなくなってしまったこともあります。博物館に置いていかれたフルイとルーペが今も残っています。今後、活かしていきたいと思います。
宮本さん(認定NPO法人北海道市民環境ネットワーク「きたネット」):きたネットの顧問を務めていただいて5年になります。今の職員はきたネット設立のころを知らず、前代表から「藤田先生に教えてもらえ」といわれて、一からご相談しました。「環境中間支援会議・北海道」という組織を連携事業として進めていますが、この設立の時もお世話になりました。きたネットの実験講座では、「電気なんて何からでもできるんだよ」と教えていただきました。3.11以降、何かしなければと「北海道エネルギーチェンジ100プロジェクト」を始める時も、「やりなさい、やりなさい、大丈夫だよ」と勇気をいただきました。
河村さん:私たちは環境学習フォーラムという団体を藤田先生と設立しました。藤田先生は、自分から学んでいく人を増やすために、学校教育をイメージする“環境教育”ではなく“環境学習”という言葉に意味を持たせました。「フォーラム」は障壁を乗り越えて、話し合う公開の場として名づけた経緯があります。自らの問題として、自ら問いかけ、自ら率先して、行動する。自分が率先したら、周りも変わっていくと考えています。
久保田さん:教えるのではなく、学ぶ人を増やすことには共感しますが、学校教育の現場の先生がそれを言うのはなぜですか。
河村さん:学校の中でもできることはありますが、学校外でも身の周りのことに自分で気づいて、日常を育てていくという仕組みは学校だけではできません。学校にいるものとして、限界があると常々感じていました。
横山さん:同じ教員経験者として。学校の中で環境に取り組むとなると、社会の先生は公害の歴史を、理科では実験、国語では書物・文章で教えることになります。でも、普段から環境にやさしい生活を問いかけて、接している先生はいないように思います。私たち自身もできていなかったと思います。気づきながら、気づかされながら、実践していくのが今の私達。セミナーなどを開催しても、教える側も教えられる側も同じ目線・立場で学習することを大切にしています。学校の先生たちにも、そこに気づいてほしいと思っていますが、なかなか難しいですね。
岡崎さん:若者の学ぶ場をコーディネイトしている草野さんはどうですか。
草野さん(NPO法人ezorock):最近は、ねおすや下川町の森の生活、浜中町の霧多布湿原ナショナルトラストなどに若者を参加させる取り組みを進めていて、少しずつその輪が広がりつつあります。藤田先生は「若い人に自分の持っているノウハウ、知識を伝えたい」とおっしゃっていたんです。きたネットの宮本さんと一緒に企画していましたが、叶わずに終わってしまいました。先生の取り組まれた思い、功績を形にしたいと思っています。
吉村さん(酪農学園大学):EPOの最初のスタッフで、今は酪農学園大学で特任教員をしています。藤田先生にはじめて出会った時、PCの前に座っている仕事が多く、人と人をつなぐ仕事がイメージできずにいました。藤田先生にはよくお話を聞き、広く受け入れてもらいました。北海道大学で実践科学環境コースをつくり、間に入る人が必要だと常々思っています。企業にいけば部署をたらいまわしにされ、NPOにいけば手伝いで終わり。そうならないようなコーディネイトが重要だと思います。活動に加わる若者はまだ一部にすぎないように感じ、環境はとっつきにくいというイメージは変わっていません。そこは課題ですね。
岡崎さん:最後にパネリストの人たちに一言ずつ
河村:藤田先生の最後のメッセージは「共生」でした。日本共生学会の設立に関わっていると話されていました。国、人種、障がいなどを乗り越えて、新しい科学のノウハウを「共生」のために展開する。共生を科学していくことが求められており、そのためにこの学会を立ち上げたとおっしゃっていました。
田中さん:コミュニケーションを取り合い、ネットワークをつくり、「ここはここ」という限りをなくして、楽しく取組み、過ごしていきたいと思っています。
横山さん:環境についての理解を子どもたちにも、家庭の皆さんにも伝えていきたいです。草野さん、吉村さんがいったように、底上げするための仕組み、携わる人々が仕事として生きていける仕組みづくりが必要だと思っています。学校の中でも環境教育がなかなか進まない現状。学校にも支援を続けていきたいです。
高木さん:今の学校教育の中で、若い先生自身が体験していないから、教えるのは無理だと思っています。もっと市民団体や地域が関わっていくことが必要です。コミュニティファームも始めていますが、種から芽を出させることがどれだけ大変か。これだけたくさんの種が落ちているのに、なぜ森にならないのかを実感できます。芽が出ることの奇跡。ボランティアさんにとっての学びの場づくりの手法が日本には育っていません。ただ、環境教育の手法を私たちは学び、感じ、体験してきたことは事実。もう一度、原点に立ち戻り、体験し直す時期に来ているのだと思っています。
久保田さん:藤田先生は「もうひとつの北海道環境白書2」の中で、「知らないことは恥ずかしいことじゃない」ということを現場の先生たちに言い続けてきたとおっしゃっています。生活のすべてが環境学習のテーマだ、とかなり早い時期から取り組んでこられました。その場にあるシンプルな道具を使って、魅力的な実験を私たちに見せてくれていました。たくさんの人に力を与えてくれました。その魅力を知り、魅せていただいた一人として、今後につなげていかなければと思いました。
有坂:藤田先生はいつも笑顔で多くのことを教えてくださいました。特に、“環境”とは自分のまわりにあるものすべてであり、そのすべてはつながっていると、教えてくれたように思います。藤田先生の思いをここにいるみなさんが引き継いでいらっしゃることが、このシンポジウムを通してよく分かりました。今後もつながりを持って、良い方向へ進んでいけると期待できる会になったと思います。
本日はありがとうございました。
最後に、今回のシンポジウムで出てきたキーワードをまとめた表をご紹介しておきます。