ネットワーク形成

ESD担い手ミーティング開催のご報告

2014年1月25日(土)に札幌市内で、ESD担い手ミーティング「『ESDの10年』に向けたセミナー」を開催しました。当日の様子についてお伝えします。
※主催:NPO法人さっぽろ自由学校「遊」、EPO北海道
共催:一般社団法人北海道国際交流センター、ソーシャルベンチャーあんじょう家本舗

今回は、2005年よりスタートした国連「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」が今年、2014年に最終年を迎えました。そこで道内各地で市民教育に取り組む方々にご参加を頂きながら、各々の10年の活動を振り返り、本当の意味での持続可能で公正な社会づくりを進めるために、どのような学びや行動が必要なのか、そのビジョンを共有し、連携や協働の可能性を探るためにセミナーとワークショップを開催しました。

基調講演 第1部
「ESD世界会議2014開催地・岡山市の取り組みと展望」
講師 原明子さん(岡山市ESD世界会議推進局 副主査)

■講演要旨
・8年前は誰もESDを知らないし、誰も教えてない状態。ただし、市民が国際会議を開催していた土壌もあり、公民館活動が盛んで素地はあった。
・岡山市の平地はすべて使い尽くしている。人間が作ってきた土地。
・土地の課題を解決していくのを入り口につながろう
・学校教育と社会教育がつながっていないのでつなげていこう
・多様な人々の緩やかなネットワークにより持続可能な地域づくりを目指す

■岡山ESDプロジェクトでは以下のような目標を掲げている
・岡山地域に暮すすべての人々が「持続可能な社会づくり」に対する理解や知識を持つ
・持続可能な社会を実現するための課題に主体的に取り組む人の輪を地域全体に広げる
・ESDを推進する各組織の能力を高め、中核となる組織を育成することにより、地域全体のESDが持続可能な形で発展していくことを目指す
・2013年現在100以上の重点取組組織、31の申請中を含むユネスコスクール小・中学校、37の全公民館がESDに取り組んでいる
・市民全体にESDの輪が広がっている

■取組
・ESD活動助成金の交付
活動資金を5~20万円ぐらいの少ない助成金。だから使いやすい。
どうすればESDなのかを考える
・ESD活動団体の交流・情報交換・対話の場づくり
ばらばらにやっていたのでは意味がない
・ESD普及のための研修・出前講座、ESDの教材づくり
市役所なので、広く浅く公平に

■ESD推進モデル(岡山モデル)
①多様な人々が対話する場がある。
②事務局が市役所:信頼される、安定性がある、予算もある、継続性がある
③専従のESDコーディネーターがいる:他の自治体のESD担当でもESDに割ける時間は仕事の1/4程度
④公民館が各地域のESD推進拠点になっている:地域に降りて行きやすい
⑤大学が地域課題解決のサポーターになっている:地域の課題解決のために学生を連れて活動する

■取組みの成果と課題
・「場づくり」と「担い手」が増えた
・課題として「どんな人が育ったかの検証がまだ」であること。時間がかかる。
・ESDコーディネーターは市に一人、公民館の職員もコーディネーターとなることを目指し研修中だが簡単にやれるものでもない。教えられるものではないため、研修のあり方が難しい。
・質の向上や回数の増加も課題としてある。
・企業の巻き込み不足。
・対話や交流により違う価値観と出会い、変わっていく。そういう人は実際にいる
・ESDというフィルタを通して自分の活動を見直すことで、足りないことが見えてくる

■今後の可能性
・これまでにできた持続可能な社会を目指す人たちの中のネットワークを「何かをやる」ネットワークにする。
・対話、交流を促し、変わっていくプロセスを共有する。
・今までは仲間とだったが、そうじゃない人たちとアクションを起こしていく時が来たのではないか
・カギとなるのは仕組みと人。また、キーパーソンをどう活用するか。
・疑問を持ち、寄り添い一緒に変わっていく姿勢
・評価は難しいが、共感できるストーリーをどれだけつくれるか。自分たちも変われると思うこと。

■結論
・ESDの定義としては、つながりの再構築、ソーシャルキャピタルを高める人間関係資本を豊かにする という思いでやっている
・過去から未来へ。地域から地球へという視点
・好きな人だけでやっているのではなくて、違う価値観の、違うジャンルの人たちと行なってほしい。

基調講演 第2部
ESD、どこからどこへ?
講師 岩﨑裕保さん(NPO法人開発教育協会 代表理事、帝塚山学院大学リベラルアーツ学部 教授)

■講演要旨
・2002年ヨハネスブルグの会議(Rio+10):世界は良くなったのか?
良くなったという人はほとんどいなかった。ただ、様々な変化があり少しづつ変わっていっているということを共有することが大事
・「お金はなくとも楽しい」という人がいると動き出す
・共通課題としては、「声が届いていない人がいる」:企業、政治家の声が聞こえてこない。
分かち合う場があまりない。企業や政治家をどう巻き込むか、この辺をもっとしっかりやっていかないとダメだと思う

■ESDのルーツ
・グローバルとローカルは別のものではなく、構造的には同じ「グローカル」
・1972年にストックホルムで国連「人間環境会議」:人間と環境がテーマ
・同年、ローマクラブがレポート「成長の限界」を発表:資源が有限でいずれなくなる、成長が右肩上がりということはないという非常にシンプルな話
・1979年、レポート「限界なき学習」:資源には限りがあるが学習には限りがない。先見と参加がポイント
・1983年「環境と開発に関する世界会議」:将来のニーズを満たす能力を損なうことがないような形で現在の世界のニーズも満足させること。
世代間の平等。少数の先進国の人々が大量に資源を消費していることを考えれば、問題は人口の増加ではなく、富める人たちのライフスタイルに持続可能性が考慮されていない
・90年代になると、ユネスコが「万民のための教育」、リオデジャネイロの「国連環境開発会議」、そしてその10年後にヨハネスブルグで「持続可能な開発に関する世界首脳会議」開催

■ESDへの転換点
・ドイツの「成人教育に関するハンブルク宣言」:人間中心の開発並びに参加型の社会のみが、持続可能かつ公正な開発をもたらしうる。立場の弱い人達の教育権を担保するのは政府の仕事。市民の参加が必要。
・ギリシャの「テサロニキ宣言」:貧困やジェンダーのほか、人口、健康、食糧、民主主義、人権、平和も環境と同時に持続可能性の教育の再構築の対象とされるべき
・ESDというと「環境」と捉える人もいるが、ESDが生まれる前までの議論は、環境だけではないということをはっきり提言している
・2002年のヨハネスブルグ「持続可能な開発に関する世界首脳会議」で小泉首相(当時)は、「持続可能な開発に必要なのは「人」である。資源に乏しい日本が人的資源を礎に教育を重視してきた。ゆえに持続可能な開発のための教育の10年を日本から提唱したい。」という流れを経て、その年の12月に国連の満場一致で採択された

■持続可能性と貧困・公害
・世界の8割の天然資源、貯蓄を持っているのは全体の2割の人々
・9.11では多くの方が亡くなってしまったが、その一方で36,615人の子供たちが日々亡くなっている。こういうことを忘れて世界は持続可能だといえるのか。貧困の問題に取り組まなければいけない。
・私はユニセフの援助を受けて戦後のまずい牛乳を飲んでいた世代。それがいつの間にか援助する側になった。しかしその高度経済成長の中で公害が起こり、それが当たり前のように思われていた。科学技術で公害も克服できたと思う人がいるかもしれない。東京、大阪、名古屋、岡山などでは市民が選挙により、技術だけではなく、市民が動くことで社会が変わった。投票という行動で社会を変革できた例。
・開発教育と環境教育がもっと結びつく必要がある
・ESDは環境の問題から国際協力、外交にもつながっている

■結び
・ガンジーの言葉、「あなた自身が変化になれ」
・ESDの10年を機に未来のことだけ考えていてはだめ。きちんと過去に向き合って進んでいこう。
・私たちの生活が多様な文化からできていることを知ることはやはり大事
・ネットワークを作って情報発信を広げていく

<対談/質疑応答>
ファシリテーター:小泉雅弘さん(NPO法人さっぽろ自由学校「遊」理事)

小泉さん:会議ではどんなことを目標に話されるのか、ポスト10年は何を見据えているのか?
原さん:閣僚級会議では10年の振り返りと、教育がどのように持続可能な開発に貢献したかの、および、持続可能な開発という動きの中でESDがどのように動いてきたかを検証する。
リオ+20の時点で、ESDは今年で終わりではないことは合意されており、来年以降の取り組みのための「グローバルアクションプログラム」が作られる。
5つの優先事項として、政策、機関包括型アプローチ(授業の中だけではない、物事との合意形成の仕方などまで含めた)、教員教育、若者、ローカルコミュニティが決められている
岩崎さん:今日ここにきてくださった方の中でネットワークづくりができるのでは。世界会議の誘致に手を挙げた札幌市役所も巻き込んで。市役所が絡むのは市民の声が必要

小泉さん:3.11があり、持続可能な開発が着実に育つような小さい芽はたくさんある。一方で、主流はどうなんだというところを見れば、持続不可能な開発に囲まれている。そこをきちんと見つめていく視点が必要だと思う
原さん:フェイスブック(Facebook、以下、FB)をしているが、ちょっと政治的なことを書くと「いいね」を押す人が減る。考えていることがばれて、そういう目で見られることを避けているのかなと思う。仲良しになるためには緩くつながるのでいいのだが、何かやろうという時に必ずぶつかる。ただ、そこを避けていていいのかと思う。

会場:
・今までの借金は老人たちが作ったと思う。年寄りが若者のために動けるようにしたい。叩かれて初めて強くなるんだと思ってやっていくと、動いていく感覚はある。
・自分の場合は政治的なようなところには踏み込まない。思うことはあるが、それがまだまだ固まっていないものだとも思う。
・意見を言って、一方的な考え方をされてしまうのが怖い。自分に対してマイナスの感情を持たれるとずっとそれが続く。
・そういうマイナスイメージを恐れない世代になっていけると良いと思う

岩崎さん:開発教育協会で原発事故を受けて教材を作った。議論の分かれる問題を民主的に議論して参加型の教育機会を提供するのが役割だと思ったので旗色を示さなかった。教材そのものは賛成/反対を示さないが、それを作ることは勇気がいる。 政治的教養は必要。それを語らせない雰囲気はある社会になっているという焦りを僕は感じている。

会場
・男女共同参画ジェンダーの活動をしているが、ジェンダーだけではなく視野を広げることが必要だし、コーディネートする役割が必要
・FBの見せ方は大事で、安心してコミュニティの議論を深められる場としても、中立性を保つ場としての在り方とそのあたりの工夫が大事かと思う
原さん:裏テーマを言わず人を呼ぶ。ひっかけられる作戦。「生物多様性」と言わず「うな丼の未来」というみたいな。

小泉さん:北海道に期待することは。
原さん:炭鉱好き。炭鉱が閉鎖されてしまった地域から、どう持続可能な街になっていくかという点で注目している。すごく深いところで何かあると思う。
岩崎さん:苫東の問題や沙流川の問題は気になっている。市民が関わっていくことで、変わっていく光明のようなものを感じる。アイヌの人とほかの人が歌って踊っているところをみたいなと思う。